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琴線
【大人 恋愛小説】

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琴線-1

空…青く澄んで高い空。幾条かの雲が空気の流れを形どっている…私は小春日和の日光が降り注ぎ、リビングの心地よさに大の字になって伸びをする…何とも幸せな気分にさせられる。

傍らには美香が小さなテーブルに両ひじを着いてしゃがみ込み、お茶を飲みながらテレビを観ている。怠惰な、そして充足感に満ちたひととき…

私、藤野一巳は美香を方に顔を向けると、一言、
[買物でも行こうか?]

美香は一巳の方を見ずに、テレビ画面を観たままで答える。

[夕食の?]

美香のその態度にちょっとムッとした一巳だが、そこは抑えて、

[ああ…何喰いたい?]

[そうだねぇ……]

美香はなおもテレビ画面を観ながら答えた。

[何でも良いよ]

その態度に一巳の怒りは助長される。"オレも30過ぎの大人だ!こんな、しょーもない事に怒っちゃイカン"と美香の態度になおも抑えながらも、一巳の声の語気は荒れてきた。

[何でも良いのが、1番厄介なんだよな!決めろよ]

一巳の"気持の変化"を美香は気付いた。付き合い始めなら分かるが、半年もすればお互いの性格を把握して"これ以上は怒り出すから抑えよう"と思うものだが美香は違った。似た者同士というか、"売られたケンカは買う"タイプなので、自然と彼女の語気も荒くなった。

[私は食べるだけだからぁ、"藤野さんが"作りたいモノを選べばぁ]

美香のワザとらしい言葉使いに、さすがの一巳もこの言葉には我慢が切れた。

[別に作らなくて帰ってもいいんだが?]

この言葉にムカついたのか、美香も負けじと、

[私も恩着せがましく作って貰わなくても良いんだけど]

一巳はすっくと立ち上がると、

[ああそうかい。だったら2度と来るか!邪魔したな!]

そう言ってドスドスと足音を立てながら玄関へと向かった。自分の横を通り過ぎる一巳に対して美香はボソッと聞こえるように、

[どうせ自分から謝るクセに…]

一巳は玄関で振り返ると、険しい表情で美香に向けて言い放つ。

[二度とくるか!]

一巳は激しい音を立ててドアを閉めると、美香のアパートを後にした。

独りになり、行き場の無い怒りに部屋を執拗に歩き回る美香。だが、次第におさまって来ると、"またやってしまった"と後悔する。

一方の一巳も、自宅への帰路の途中から怒りは徐々に消え失せるのと同時に"大人気無い自分"に対しての怒りがフツフツと沸いてくるのだった……


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