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壁に鍵穴
【コメディ その他小説】

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壁に鍵穴・後編-3

ここの住人は仲が良いらしい事、そしてそれは管理人さんの願いである事……
住人達は、僕の入居を仲間が増えたかの様に喜んでくれて、僕もそれに対して……
うん、悪い気はしない。
そして、あの鍵は何かのスイッチになっていて、回すと軍艦マーチが流れる仕組みで……
たぶん、僕が鍵をいつ回して軍艦マーチを鳴らすか、予想して楽しんでいたのだろう。

「ねえ、こういうの苦手?」

突然の声に驚くと、右隣で今井さんがニヤニヤと笑っていた。
「いえ…… ただ何となく鍵の事とか解って、それで今、少し考えていました」
「鍵?」
「ええ、鍵です」
すると、右手に持っていた箸をビールの注がれたグラスに持ち変えて、クーッと半分程飲んだ後で
「実はね、あの鍵を考えたのは私なの」
「今井さんが?」
「そう。澤田君の部屋が、まだ空き部屋だった頃にね? 管理人さんが新しく入居する人がみんなの輪に入りやすい様に、何か仕掛けをしようと言い出したのよ」
「仕掛け、ですか?」
「そう。まあ、管理人さんはいつもあんな感じだし、でも考え方は間違ってないと思うから協力する事にしたわ」
残り半分のビールを飲み干ながら、更に続ける。
「入居した人を不愉快にさせず、気味悪がる事もさせず、みんなと最初に話すきっかけになる様な仕掛け……」
「それが、鍵ですか?」
「そう、鍵。元に澤田君は鍵の正体が知りたくて、私や原田さんの所を訪れたでしょ? でも、回すと軍艦マーチが流れるアイデアは……」
今井さんが言いかけたその時、原田さんが勢い良く立ち上がり「あれを作ったのは、このアイカワ君よっ!」と悪いオヤジを指差しながら、誇らしげに叫んだ。
と、同時に悪いオヤジの頬が少し赤くなった気がしたが…… まあ、いい。
今は今井さんの話の続きを聞こうと思う。
「でも、どうして鍵なんです?」
「うふふっ、あれにはね、ちょっとした意味があるのよ」
「意味?」
「ええ。 あの鍵はね、澤田君の心の扉の鍵なの。鍵を解いて、心の扉を開いたから、あなたは今此処にいて、私やみんなと夕食を楽しんでいる…… て、感じかな?」
言い終えて、照れた様に笑う今井さんを眺めながら、僕は再びボンヤリと考える。

なるほど、心の鍵ねぇ……


結局、その夜は10時近くまで付き合わされ、僕の中には翌朝の仕事に差し支えないかという懸念が残ったものの……
それ以上に心地よい疲れが体に溢れて、部屋に入るなり電気も灯けずにベットに崩れてしまった。
ふと、崩れたそのままの姿勢で正面に視線を送ると、例の鍵穴が窓からの月明かりを浴びて鈍く銀色に光を放つ。

心の鍵……

僕は少しだけ、先程のみんな……
原田さんや管理人さん、悪いオヤジの顔を思い出してみた。

そして、最後に今井さんの顔を思い出して……

なんとなく、おやすみなさい、と呟き瞳を閉じた。


おしまい


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