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「バイバイ」ではなく「サヨナラ」を…
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「バイバイ」ではなく「サヨナラ」を…-2

いつのまにか辺りは暗くなり、電灯の光がベンチを照らすようになっていた。ピューっと風の音が聞こえる。香織がくしゃみをした。そうか、寒いんだ。俺は、無駄だとわかっていながらも、通り抜けてしまわぬ程度の力加減で香織を優しく抱き締めた。
温もりはわからなかったけれど、香織の息遣いや鼓動が聞こえてきて、それが俺の胸を熱くさせた。
その熱が俺に一つの勇気を与えてくれた。
香織の頭の上に俺のアゴを軽く置き、香織の顔が俺の胸に包まれるように抱きしめながら、聞こえるはずのない相手へ語り始めた。

「香織。俺はお前と一緒に居れて本当に幸せだった。いや、今でも幸せだよ。こんなにお前のこと好きだもんな。そしてたぶんまだお前も…。でもな、このままじゃいけないと思うんだ。なんにも解決しないしな。だから…だから、ケジメをつけよう。」

 俺は香織から身体を離す。そして空を見上げ、目をゆっくりとつぶった。
『神様、もう俺を連れていって下さい』

身体が徐々に消えてゆくのがわかった。不思議と心地いいもんなんだな…。
「香織、サヨナラ」


「智樹!?」
聞こえるはずのない恋人の声を聞いた気がして、香織は顔をあげ周りを見回した。
しかしもう暗くなったこの公園には、香織しか居なかった。
さすがにもう帰ろう。そう思って立ち上がろうと横に手をついた時、指先に何かがあたった。
「何?」
条件反射的に手元を見る。そこには見慣れた字で、『サヨナラ』と書かれてあるハッカ飴の空缶があった。



「香織、知ってるか?言われてみれば確かに、ってことなんだけどさぁ」
「なに、なに?智樹」
「例えばさぁ、今から俺たちがお互いの家に帰るとするじゃん。その時って『バイバイ』とか『また明日ね』って言って、『さよなら』とは言わないだろ?意味としては一緒なのにさぁ」
「確かに。そういえばそうだねぇ」
「親しい間柄での『さよなら』って、もう簡単に会えない時に使うものなんだってさ。今生の別れってやつかな!?まぁ、俺たちに『サヨナラ』は無いけどな♪」


あの時の智樹はそう言って無邪気に笑っていた。
そんな智樹からの『サヨナラ』…。

香織は『サヨナラ』をしばらくみつめたあと、静かに空缶を置き公園を後にした。
その瞳は先程までのただ悲しみにくれたものではなく、しっかりと自分自身の明日を見つめていた。


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