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秘密
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秘密〜菖の恋〜-6

5
美狭子さん達が去っていくのを見た後、ボードを消すために音楽室へ再び入った。
「はい」
布を差し出され、受け取る。
「あ、ありがとうございます」
心臓の音が聞こえないかと心配して先生を見た。
「なに?」
視線に気付いて私を見た。
「いっ、いえっ」
ぱっと視線をずらし、布を洗いにベランダにでる。

 ・・・〜♪
ピアノがなった。
「ー・・先生」
「弾いて欲しい曲は、有るか?」
鍵盤を見ながら話しかけてくる。
「え・・・、」
「トロイメライは、駄目なんだろう?」
こっちを見て尋ねてきた。
「でも、掃除が・・・・」
布を絞りながら、答える。冬の水は、やっぱり冷たい。
「あぁ、・・・時間だな」
じゃあ、と笑う。
「放課後にしよう」
「え?・・・何で私なんですか?」
「・・・・何でだろう?」
ふっと笑い、ぱたんとピアノを閉めた。

ー返事になってないよ・・・?

先生をじっと見る。
「あまり見るなよ?照れるだろう」
ははっと笑いながら、目を反らされた。
「・・・。」
「放課後な」
手を振って送り出される。

ーよく分からない人だ。

心からそう思う。掴みにくい人、本音が分からない。


「菖さま」
音楽室へ行こうとしたところを呼び止められた。
「千香子(チカコ)ちゃん」
呼び止めた少女は、若瀬 千香子(ワカセチカコ)。一つ下の子だ。
「今週は、部活無いとき来ましたけど?」
 だから音楽室へ行こうとした私を呼び止めたのか。と納得する。
「ええ、無いわ。私は、音楽室に少し用事があるだけ。心配しないで良いわ」
にこ、と笑い、千香子を安心させた。
「あ、そうですの」
ほっと安心したように笑みをこぼす。
「じゃあ、気を付けて帰りなさい」
「はい。ごきげんよう」
「ごきげんよう」

ふう、危ない危ない。まさかここで会うとは・・・。

くすっ
後ろで笑い声がした。振り向くと、先生が立っていて、面白そうな目で私を見ている。
「せんせ・・・」
「口調、俺の時と違うのな。猫被り?」
「!!ちがっ、これが地ですわ!」
つい無気になって返事をしてしまった。
 あぁぁぁ、これじゃ肯定しているようなものじゃない。
「ははっ」
面白そうに笑い続ける。笑い上戸なのねと密かに思う。けど、また先生のことが一つ分かって、少し嬉しい。

「じゃあ、アウ゛ェ・マリアとかは?」
指を鍵盤に置いたまま尋ねてきた。
「好きです」
「じゃ、それで」
♪ターン
曲が始まる。
白い、細い指が軽やかに動く。繊細そうな指から流れる音は、とても綺麗。
「〜♪」
つい合わせて歌ってしまった。
それを見て、ふっと先生が笑む。
ピアノと私の声が重なる。不思議と私の歌も上手に聞こえてしまう。
-6-


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