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ツバメ
【大人 恋愛小説】

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ツバメC-3

「福岡孝太郎くん」
『あ、うん』
その名前を聞くと、秋葉原での一件を思い出す。
「福岡くん、かっこいいよね」
『へ?』
ちょっと待って、え?
「僕、大学が福岡くんと一緒でさ、その時から福岡くんは周りから頼られてて」
『う、うん…』
大学一緒だったんだ。
それにしても、まさか千川くん…そっちの人じゃないよね?
「福岡くんに憧れてるんだ。彼みたいになりたいなって」
『あ…そうなんだ』
そうだよね、まさか千川くんに限ってそれはないよね。
あーびっくりした。
「だから、嫉妬しちゃった」
『ええ?』
嫉妬!?
「僕が四年間で全く話せなかったのに、綾瀬さんがあっさり話してるから」
『……』
「やっぱり女の子はいいね」
『う、うん』



その後のことは所々しか覚えてない。
気まずい空気を消すために、とりあえず飲んで飲んで飲みまくったら案の定、泥酔。

目を覚ますと、車の中だった。
「あ、綾瀬さん大丈夫?」
『う…うん…あたし…』
「車乗った途端に寝ちゃって。随分うなされてたよ」
『え?なんて?』
「つばめぇ〜つばめぇ〜って」
『う』
千川くんはへらっと笑う。きっとひたすら自分の名前を読んでると思っているのだろう。
なんであたし、“あのバカ”を?
「あ、このへんだよね」
『うん、あたし、おしえた?』
「うん」
千川くんがハンドルを切ると、アパートが見えた。
『あ、ここ、ありがとう』
「いえいえ。話聞いてもらえてよかったよ」
そう挨拶して車を降りる。
「あー!椿芽!おっそいよ!」
『あ』
「?」
燕がアパートの階段を降りてきた。
「誰?友達?」
さっそく燕は千川くんに気付いた。
『うん、同期の』
「……」
燕はじっ、と千川くんを見つめている。
これはまさか…嫉妬!?
ちょっとこの展開にドキドキしてます、あたし。
「こんばんは。すいません、彼女さんに相談があって、遅くまでお借りしてました」
千川くんは車から降りると、爽やかに挨拶した。
「いやいや全然、むしろ面白いんで」
「え?」
『……』
また“あのバカ”は余計なことを…
「はは、じゃあ失礼します。綾瀬さん、また会社で」
『うん』
千川くんは車を走らせ、すぐに見えなくなった。
「椿芽ちゃん、あの男と飲んでたんだ」
『……』
ニヤニヤする燕。
『はぁ…』
「なにそのため息、彼氏を何時間も待たせて、彼女は呑気にデートですかぁ」
ちょっとカチンときたけど、否定できない。
『ごめん』
それに燕は、本当に嫉妬しているのかもしれない。
「お腹すいた」
『あたし酔ってるから料理できないよ』
「椿芽に料理しろなんて言ってませーん」
そう言いながら、再び階段を上る燕。
その背中を見つめるあたし。そんなとき、ふと思った。

燕はよく合コンに行くのを本人の口から聞く。
もしかしたら女の子と二人で会ってるかもしれない。
でもあたしは、そんな姿を目撃したことなんてない。
あたしは放任主義で嫉妬なんてしないと自分で思ってるけど、いざ目撃すると、嫉妬してしまうのかも。
でも燕は今まさに目撃して、多少は嫌な気分になったんだろうな。

ざまあみろ、という言葉と、ごめん、という言葉が、いつまでもあたしの中でグルグルと回っているのだった。


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