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『暖かい雪』
【純愛 恋愛小説】

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『暖かい雪-3-』-2

「この子が高校に入ってすぐに、父親が失業して過労死しちゃったの。」

「………。」

「それで母親の実家が新潟にあるんで、仕事を探しがてら越して来たのよ。」

「………。」



「あらやだ、他人様にこんな話しちゃったりなんかして…あたしも年かしら。」

女将さんは、この子のお酒に付き合わせちゃってごめんなさいね、と付け足して俺を部屋に帰した。



確かに、と俺は思う。
可哀相な境遇である、と。

しかし俺は、舞子の父親の死因・過労死というもの自体は哀れだとは思わない。

…思えないのだ。



社員・人材を雇う側である社長の立場から言わせてもらえば、過労死とは、
『自己管理の出来なかった者の最終形態』であり、『自業自得』の死なのである。

冷たいと、言われるだろうか。


しかしこれは、俺が父親を見て感じ取った教訓の一つなのだ。

今は会長として会社を引っ張っている父の、過去を見てきた俺が思う過労死とは、負けを意味するものでしかないのである。




それはさておき、朝早くに謝りに来た舞子が部屋を出たあと、俺は何をしようか考えていた。

幸い宿の中は暖房が行き届いて、浴衣の上に何か羽織れば、そのままで動ける。

部屋から見える白い景色は、普段雪と触れ合わない俺を飽きさせない。


窓の前に立ち、浴衣の両袖に組んだ腕を忍ばせる。

近くの博物館にでも行こうか、と思ったその時。

ふと背後に人の気配を感じた。


振り返ると、まだ扉を閉めないでこっちを見ている舞子と目が合った。

「あ…、……夕飯!今日は夕飯いりますか?」

「…うん。」


慌てたように部屋の扉を閉めて出て行った舞子の様子に、淡い期待と自惚れる気持ちが、チラついた。
頭を軽く振って、窓の雪を再び見つめてその邪念を薙ぎ払う。



…あと14日も、この地にいるのだ。
仕事も何もかも現実は忘れて、この白銀の世界でゆっくり骨休みするとしよう。

室内との温度差によって結露が出来た窓を開け、俺は息を吸い込んだ。


…舞子も今、この階段の下で同じ景色を見ているかも知れない。
そう思いながら。


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