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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-7

「どうしたの?」
 不審を覚えた美弥が、心配そうに問い掛ける。
「やばい……かも……」
 振り返った瀬里奈は、かすれた声でそう答えた。
「いった……い……」
 それが耳に届いた美弥は、質問を途中で切る。
 近い部屋で待機していた龍之介が、笑い声を上げていた。
 尋常ではない調子の笑い声に、二人は顔を見合わせる。
 視線が合った二人は次の瞬間、新郎の控室に向かって駆け出していた。
 
 
 さて、それより時間を遡る。
 
 
 急遽花婿の控室となった部屋で、龍之介は純白のモーニングに身を包んでいた。
 これからは、生涯のパートナーとして美弥と添い遂げる事ができる。
 その権利を、手に入れる事ができた。
 龍之介はこの上ない喜びをもってそれを噛み締め、また身を引き締める。
 プロポーズに応えてくれた美弥を、悲しませるような真似だけはしたくない。
『龍之介』
 ドアの向こうから、躊躇いがちな竜彦の声がした。
「入って。兄さん」
 弟の許可が下りると、竜彦はドアから顔を覗かせる。
「どうしたの?」
 ウェディングケーキの仕上げをしていたはずの竜彦が部屋に顔を出すという事態に、龍之介は戸惑った。
「その……見せるか見せないか迷ったんだが、やっぱり見せるべきだと思ってな」
 何だか歯切れの悪い言い方に、龍之介は不審を覚える。
「メッセージカードだ」
 竜彦は、シンプルな包みのカードを龍之介へ渡した。
「?」
 龍之介は、カードを開く。
 
 Congratulations on marriage.
 
 from M.T.
 
 そこには、流麗な筆記体が記されていた。
「これは……」
 びく、と龍之介は凍り付く。
 ――立花恵美。
 自分に忌まわしい記憶を植え付けた女が、『結婚おめでとう』などというメッセージを送り付けてきた。
 あれから全く姿を見せないので、放っておいたのだが……自分が近付かない代わりに、探偵でも雇ってこちらの生活を報告させていたのだろう。
「龍之介!」
 激しくえずき始めた龍之介を見て、竜彦は駆け寄った。
「だ……大丈夫!」
 拳で口元を覆い、龍之介は叫ぶ。
「大丈夫……」
 どうせいつかは、乗り越えなければいけない壁だ。
 それが今、自分の過去から立ちはだかって来たに過ぎない。
「まだ……時間あるよね?ごめん、一人にして欲しい」
 弟の決然とした声に、竜彦は躊躇ったが頷いて外へ出る。
 一人になってから、龍之介はメッセージカードを検分した。
 かつては未来の義姉に対する親しみ以上の感情を抱き、今となってはさして長い時を過ごした訳でもない今までの人生の中で、最大の汚点となった女。
 その女は、よりによってこの日を狙ってこんなメッセージを送り付けてきたのである。
 あの日から自分の中に巣食ってきた苦しみは、あの女にとってこの上ない楽しみだったのか……。
 思考を突き詰めれば突き詰める程、あれだけ苦しんだ事が馬鹿らしくなってくる。


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