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ツバメ
【大人 恋愛小説】

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ツバメA-2

『あった、ここだ』
会議室を見つけ、深呼吸をする。
失敗しないように、失敗しないように。
ゆっくりとノックし、中に入る。
『失礼いたします』
中に入ると、すぐにタバコの煙で目が痛くなった。
『……』
かなりミーティングは切迫しているらしく、皆さんイラついているようだ。殆どの参加者がタバコをくわえている。
『お茶をお持ち致しました』
「おお、もうこんな時間か」
「部長、ミーティングはまた後日にしませぬか」
「そうですな、昼食時間に入ってしまっておる」
『……えっと』
間も無く、会議参加者は次々に部屋を出ていった。
お茶が無駄になってしまい、落胆する。
『あ…もうこんな時間……お昼行けないや…』
腕時計で時間を確認し、お盆を再び持つ。
「……きみ」
声の方に振り返ると、まだ一人残っていたらしい。
「……お茶くれる?」
『は、はい』
その男性社員はお茶をグイッと一気で飲むと、笑顔を見せた。
「煙すごくて。僕タバコ吸わないから」
『そうなんですか…』
「あ、もっともらっていいかな」
男性社員は笑顔のまま次の湯飲みに手を出す。
『は…はい…』
椿芽は反応に困った。きっとお偉いさんなのに、OL相手にこんなに気さくだとは。
それにしても若い。一つ二つ上くらいか。サラサラの長髪で、背が高い。
「きみ、お昼食べれなかったんだろ?」
『あ、はい』
「可哀相に…ごめんね」
ミーティングが長引いたのはこの人のせいじゃないと思いながら、相づちをうつ。
「これあげる、食べなよ」
なぜか男性社員のポケットからはおにぎりが出てきた。
『え?』
「ああ、びっくりした?僕、常に社内を動き回ってるから、なかなか昼食時間取れなくてね。どうぞ」
『あ……じゃあ、頂きます』
「お茶もあるし、一緒に食べようか」
『え…はい』
なぜか会議室前のラウンジで男性社員と食事をとることに。まあこのままだと昼抜きだったからよかった。
「あ、きみ、名前は?」
『あ、綾瀬椿芽といいます』
とりあえず頭を下げる。
「ツバメ?あの?」

『いえ、椿に芽です』
そのツバメは“あのバカ”です。
「へえ、可愛い名前だね」
また男性社員は笑う。
『あ、ありがとうございます』
「僕は福岡孝太郎」
『え?』
あの福岡孝太郎?あっさり出会っちゃった。
というか、新入社員だよね、この人も。それに同い年だ。
福岡は名刺を差し出す。総務部所属らしい。
『あの、大卒の新入社員さんですよね?』
「うん。きみは高卒の新入社員でしょ?」
え?あたし、十八に見られた?
『……いえ、大卒です』
「え?えぇ!タメ!?なんだよー!早く言ってよね。年下に見えたからつい威張っちゃった。タメ口でいいよ」
福岡は苦笑いしている。
『じゃあ……でもなんであたし高卒?』
「いや、見た目、子どもだったから」
『うそ、そう?』
「うん」
緊張から解放され、おにぎりを口にする。
ここで気になったことを尋ねてみる。
『ねえ、福岡くんって新入社員なのにミーティング出てるの?』
「あー、部長がね、お前は英才教育だーとか言ってさ」
『やっぱりエリートなんだね』
「新入社員だから微妙だけどね」
なんだ、エリートだから嫌な感じかと思ったけど、普通じゃん。


結局、彼はお茶を六杯飲んで立ち去った。
去り際にまたね、と言ってくれたのが嬉しかった。しかし、何より嬉しかったのは、お茶をあんなに美味しそうに飲んでくれたからだ。しかも全部。
エリートだからとか関係なく、福岡孝太郎のことが気になった。


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