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君が望むもの
【ボーイズ 恋愛小説】

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君が望むもの-4

トートバックの中で唸るバイブを止め、携帯電話を耳にかざした高井の声が車内に響く。
信号につかまりウインカーをあげた。
「――夜には帰るので連絡します」
ここを曲がりあと5・6キロメートルもいくと法要を執り行う寺がある。
「久しぶりなんだから、そんなに急いで帰らなくても」
閉じた携帯電話をバックに放り込む木原に前を見たまま告げる。
「親父さんのところが嫌なら、うちに泊まってもいいんだから」
規則正しいウインカーの音が押し黙る間、秒針のように響く。
「どうしてなんだ?」
右折し終わるとタイミングをはかったように高井は口を開いた。
「なんでそんなに世話やくの」
「なんでって、ガキの時からずっと友達だろ。助けるのに理由なんてないさ。お前ももっと俺を頼ってほしいよ」
高井はハンドルを持ったかと思うと勢いよく左にきり、車は大きく揺れて歩道に乗り上げ、遅れてブレーキを踏んだ。
 衝撃に唖然としながら、ルームミラーで後続車がいなかったことを確認し胸をなで下ろす。それよりも左前のバンパーがどうなってるか確かめた方が良さそうだ。
「お前なんてことするんだよ」
あきれながら背筋を伸ばして見ても、当然そこから見えるはずもなく、車から降りるためシートベルトをはずした。
「いいからこっち向けよ」
高井の強い口調に振り返り、初めてその顔を正面から見据えた。
覚えていたよりもずっと大人の男の顔に、離れていた年月が永かったことを思い知る。
「今更なんだよ、木原。頼るたび、手を振り払ってひるんだのはお前じゃないか」
ハンドルに置く手の上に高井の冷たい手が重ねられ、そこから手を引き抜いてはっとした。
「こんな風にいつも避けてた」
高井に触れた手の甲をもう片方の掌でさする。
「あの教室で工藤との事見たって何もない顔して、何が助けるだよ。俺はお前の何を頼れば良かったんだ」
 身を乗り出しその細い肩を掴みシートに押しつけた。
「子供だったんだ。やりかたが分からなくても助けたいと思っていたのは本当だよ」
「口だけだろ。お前の言う事なんて偽善だ」
振り払われた手を呆然と見ていた。
想いを伝えることがこんなにも難しいだなんて知らなかった。シートベルトをはずすその手を止める術すら判らない。
「歩いて行く気?」
 声を荒げていた高井はひとつ息をつき、呼吸を正した。
「駅に戻るよ。最初からここに来たのは、」
 言葉を切るその先をいつも聞けなかったのは、俺が弱かったから。頼ってほしいと願い、助けられる力量がないことを知られたくなかったし、認めたくなかった。
「木原に会いたかったから」
 ドアが閉まる衝撃で車が揺れる。
 ルームミラーの中歩いていく背中が見えた。
 君が夢中になるものから振り向かせ、その目に映りたかった。
 小さく遠くなっていく君に俺はまだ、何も伝えていない。
 ドアを閉める音に気づいて体を固くする高井に向かい走った。
 足を止める背中に息を整え言葉に迷った。言いたいことはたくさんあるのに、それを口にすればどれも薄っぺらなものになってしまいそうで怖かった。
「くそっ」
 もどかしく小さく舌打ちすると、その体が振り返りその目に俺が映る。
 高井の腕を掴むと体が熱くなり心臓が波うった。
触れる度、想う程苦しく切なく喉を締め付ける。それがいつも嫌だった。平然としている高井に、この想いまでも伝わるような気がして。
 でももう、ごまかす事はしない。
 そのまま引っ張り傾いた高井を抱きしめた。胸が触れ合い、互いの跳ねる心臓が重なって俺だけじゃないと気づいた。

 君が望むことはしてあげられない
 ただ俺が、ずっとこうしたかったんだ


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