トラブルバスターズ01[一章]-3
軌道船(オービタ)とはスペースシャトルの一ブロックとして呼ばれていた時期もあったが。
今は技術の発展と多くの人が宇宙に飛び出さなければいけない現状から飛行場または垂直離着陸からの大気圏の離脱と大気圏への再突入を可能な航空機といった意味合いが強かった。
多くの人は軌道船で宇宙へと登り、その船体をより宇宙航行に優れた宇宙航行船に軌道船を格納して宇宙を渡り、再び軌道船に乗り星へと降り立つ。
一行を乗せた[シルフィード]は金属球の様な表面から突き出た6番ゲートから[スキュラ]内部へと入って行った。
無骨な星を囲む外壁には似合わなく、スキュラの本当の大地には適度に木々が生い茂り、よく見ると人工照明ながらも地球の空さながらの青く明るい空が広がっていた。
「不細工な外見の割には住みやすそうな星じゃない」
眼下に見下ろす限りの街も、スラム街なんぞ全く見当たらず。
小綺麗に作られている住宅街に、活気に溢れた繁華街と理想的な街並みだった。
「ダイソン型ってのは星自体が条件を満たしてれば金属の殻に閉じこめて周りに関係無く箱庭作るようなもんだからな」
バーニィがなにやら不機嫌そうに話す。
(昔、何かあったのかな?)
ミリィは気になりこそしたが、不必要に人の過去を探るような真似は良くないと聞くのは思いとどまった。
そして[シルフィード]はスキュラの大地に降り立った。
と言っても原っぱに軌道船を降ろす訳にもいかず、軌道船ターミナルなのだが。
ターミナルでの手続きを済ませると一人の気の弱そうな男がミリィに話しかけてきた。
「あの、失礼ですがトラブルバスターズの方々でしょうか?」
それが今回の依頼主との初の顔合わせだった。
ここで立ち話なんだと言うことで、ミリィ達は装備を整えると近くにある飲食店へと四人は入って行った。
屋外にしつらえられたテーブル席に四人が座ると最初にミリィが自己紹介を始めた。
「改めて、初めまして。ラック=スターダストさん。トラブルバスターズ実働課のミリオン=サトーです。手短にミリィと呼んで下さい」
「同じくバニング=トールだ」
「レイ=フリーザだ」
ミリィは先程のマグカップを投げつけた粗暴さはなりを潜め営業スマイルで依頼主に自己紹介をする。
男組は無愛想な自己紹介だった事は台詞の通り。
彼等は営業という単語をあまり考えないと言っていいだろう。
らしいと言えばらしいことこの上ない。
「依頼したラック=スターダストです。お願いです!妹を、妹のマリナを助けて下さい」
ラックはミリィに縋る様に頭を下げる。
「ラックさん、まずは落ち着いて状況を話して下さい。状況が判らないと我々も動けませんから」
興奮した人から話し聞くのは大変なのよねと思っている事など表に出さずミリィは依頼人から情報を引き出そうと試みる。
残念な事に興奮状態のラックから聞けた事は先に連絡を受けていた内容とあまり変わり映えしなかった。
依頼の内容は要するに依頼主であるラック=スターダストの妹のマリナ=スターダストの救出。
その彼女は惑星[スキュラ]を牛耳る十二の企業の一つ[メイデン]の何かしらの研究者である事。
小柄な体つきに金髪のショートボブ。野暮ったい眼鏡の奥にはクルリとした瞳が煌めいていた。
その顔写真を見る限り顔は、街中の男に「この女性って綺麗だと思う?」と問えば「可愛いんじゃないか」と答えられる容姿だろう。
ちょうど一週間前、彼女は自宅で拉致された。
失踪ではなく拉致と分かっているのは簡単な理由だった。
その瞬間はマリナの仕掛けた防犯カメラによってはっきりと捉えられていたからだ。
犯行グループからの身の代金やその他の要求、連絡はないらしい。
もちろん、彼は警察機構に頼み込んだ。
ビデオという物証が有るにも関わらず、スキュラの警察機構はまともに取り合ってはくれなかった。
ラックはここで犯人側のスケールの大きさに気付いた。
この惑星において分担して地球化を行った十二の企業の幹部クラスこそ、民間から選ばれた政治家より遥かに権力者なのだ。
ゆえにその権力者達は政治家以上にありとあらゆる方面に圧力をかけられる。
その権力者に逆らってまで正義を全うしようとする警官はこの星には多くはないのだろう。少なくともラックは正義感溢れる警官に遭うことは出来なかった。
「だから、荒事(あらごと)専門で星々を渡り歩く私達[トラブルバスターズ]に頼んできたのね」
トラブルバスターズの三人が水を得た魚のように心の奥底で笑う。
「相手が悪党ならお前の代わりにぶっ潰してやるぜ」
トールがそう三人の心の中を代表したように吼える。