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「ピアノは全てを見ていた」
【悲恋 恋愛小説】

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「ピアノは全てを見ていた」-2

ピアノの世界に少年が入って来てからしばらく経つと、少女は自分が初めて見た頃より随分と大きく、美しくなっていました。

少女も少年も、もう小さくはありませんでしたが、ピアノにとっては少女と少年のままでした。

少女は『オンガクノセンセイ』というものになったらしいのです。

そして、少年は金の髪を黒くして『ケーサツカン』になったらしいのですが、この部屋から出られないピアノには、やはり意味が分かりませんでした。




やがて、少年と少女は『ケッコン』というものをしました。

ピアノには、なんのことなのか分かりませんでしたが、二人がもう少しでこの部屋からいなくなるということを二人の会話から聞きました。

少女は、ピアノにまた弾きに来るからねと言って、部屋を後にしました。

ピアノは哀しみました。

自分を弾いてくれる人は、少女以外にいません。

たまに部屋に少女と少年が現れ、自分を弾いてくれましたが、その間隔も徐々に開いていきました。

ピアノは、もやもやとしたものが静かに、ですが確かに大きくなっていることを感じました。




ある日、部屋に少年だけが入ってきました。

ピアノは少女が来ないことに少しがっかりしましたが、それよりも少年の様子が気になりました。

少年は涙を流しながらベッドに腰掛けているのです。

ピアノは、少年が悲しい気持ちになっていることを知りました。

何故泣いているのだろう。ピアノがしばらく様子を見ていると、少年はこちらへと歩み寄ってきました。

ピアノは軽く少年に触られると、その手が震えていることに気付きました。

少年は涙を拭こうともせずに、ピアノの前の椅子に腰を落としました。

ピアノはなんだか嫌な気分になりました。少年の言葉を聞いてはいけないような気がしたのです。

しかし、ピアノは少年の言葉を聞いてしまいました。



ごめんな、と。



もう彼女はこの部屋に来ることは無い、と。



少年は椅子から立ち上がると、部屋を出ていこうとしました。

ピアノは何を言われたのか最初は分かりませんでした。

少年が部屋から出ていって暫く経ってから、ようやくその意味を理解しました。



なぜ。



なぜ来てくれないのか。



もやもやはさらに大きく強くなっていき、ついに破裂しました。


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