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「ピアノは全てを見ていた」
【悲恋 恋愛小説】

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「ピアノは全てを見ていた」-1

ある時ピアノが気が付くと、白い部屋に置かれていました。

その部屋はとても広く、全てが白い部屋でした。

本棚、テーブル、ベッド……。ピアノはそこで、ベッドの上に誰かがいることを感じました。

ベッドの上には、小さい女の子がいました。小さなその体よりもさらに小さい、白いウサギのぬいぐるみを抱いて。

ピアノは、自分が部屋の中央に置かれていることを知り、少女にはこの部屋は大きすぎるのではないかと思いました。

少女はぬいぐるみをベッドに置くと、ピアノを弾こうとしたのでしょうか。ちょこんとピアノの前の椅子に腰かけました。

しかし、ピアノは自分の体の大きさを知っており、少女には自分を弾くことは出来ないと知っていました。

少女は、目の前にある鍵盤を叩くと、楽しそうに笑っていました。

ピアノは鍵盤を叩かれるたびに、少しむずがゆさのようなものを覚えましたが、少女に弾かれることを嫌がりはしませんでした。




ピアノは少女が大きくなるたびに、様々な曲を弾いてもらいました。

ピアノはそのことに喜びを感じていました。



ピアノはいつも少女を見ていました。

少女の肌はとても白く、対照的にその髪はどこまでもその肌とは対極的な黒さを有していました。

ピアノにとって、少女とこの部屋が全てでした。

少女はピアノを弾き、ピアノは少女の指に合わせて素敵な音色を出し続けます。

それは、これからもずっと続くのだと思っていました。



ある時、その世界に一人の少年が入り込んできました。

ピアノは、少年と少女の話を聞いて、初めて自分の名前が『グランドピアノ』と言うことを知りました。

少年の言葉を聞くと、少女の親は『ユーフク』というらしいのです。

そして、少年は自分の親を『フツウ』と言っていましたが、ピアノにはその意味が分かりませんでした。




ピアノは、少年のことが嫌いでした。

いつも、自分と少女の曲を聴き終わると、拍手を送ってくれましたし、自分の体を拭いてくれたこともありました。

少年は、明るい金の髪をしていました。

ピアノは、白と黒だけだったこの世界に、他の色が入り込んだことに、いや、他の人間が入り込んだことに、もやもやとしたものを感じました。


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