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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ9-4

視界が滲んで顔が見えない。
でも…待ち望んでいたような温かい声。
「あ…あはっ、どうしたの?」
涙を慌てて拭う。
「……やっぱり、追いかけてきちゃった」
「………」
月明かりに照らされた顔は、やはり青空だった。
「バス、まだ来ない?」
「……うん、まだもうちょっと」
「……そう、あのさ、これが最後だから、聞いて」
青空はニコッと笑った。そして優しく言った。
「なにがあったの?」
「………」
「俺は……葵ちゃんが大切だから、力になりたい。話を聞かせて」
その言葉を聞いた途端、体が安心したのか、すごい勢いで涙が流れた。
「っ…ひっく…あのね…うちの両親はね…」

かなり早口で話した気がする。
青空くんは、うんうんと何度もうなずいてくれた。
「……で、葵ちゃんはこれからどうするの?」
「わかんないよ…」
「……じゃあ、一緒にいようか」
「……へ?」
「……えっと、だからさ…葵ちゃんが好きだから……俺が守りたい」
「……だ、だって、青空くんは由貴ちんが好きなんでしょ?」
葵は困惑して辺りを見回す。
「………もちろん由貴ちゃんが好きだったよ。けど、葵ちゃんが苦しんでるって気付いて……ずっと葵ちゃんの力になれないかと悩んでたら、いつの間にか友達の中の一人じゃなくて、一人の大切な人を助けたいって気持ちに変わって……だから」
「……」
「今は真剣に葵ちゃんが好き」
青空はまっすぐ葵を見て言った。
「……」
「俺はお金なんて持ってないけど、葵ちゃんをめいっぱい愛してあげたい」
「愛……」
愛なんて言葉信じない。
ずっとそう思ってた。
でも…その言葉を聞くと、なぜか胸が温かくなる。

そうだ。
うちは誰かに愛してほしかったんだ。
お金じゃなくて、愛。

気付けばうちは、青空くんに飛びついていた。
「……さっき言ったこと本当?」
「………ん?」
「……だから」
「………うん」
「………あは」
「………はは」
「……あれ?」
「……雪!?」
空を見上げると、はらはらと粉雪が舞い降りてきていた。
「すげー、ドラマみたい。クリスマスに告白して、雪が降り出すなんて」
「あはは、たしかに、奇跡みたい」
「めちゃくちゃ恥ずかしいね。ホワイトクリスマスで抱き合ってるなんて」
「うん……でも、幸せ」
そのとき、バスがゆっくりとバス停に止まり、そしてすぐにまた動き出した。
「……バス、行っちゃったよ」
「……いいの、バスは何度でも来るんだから。今はずっと……こうしていたい」
二人は時間を忘れ、いつまでも抱き合っていた。





その後、葵はすぐに青空を家族に紹介した。
これでとりあえず父親を牽制できるという青空の提案だ。

予想通り、翌日からは着信もなく、平穏な時間がかえってきた。
父親も最近は母に当たらず、優しくし始めたようだ。
きっと青空が誠実な態度を見せ、うちへの優しさを強調したからだろう。


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