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卒業の季節に
【青春 恋愛小説】

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卒業の季節に-1

私には、忘れられない恋がある。
大好きだった。
本当に、ほんとに‥
どうしてだろう。
誰に、どんなに恋をしても。
彼の影がちらつくのは。
二人で一緒に出かけたことも、気持ちを伝えあったこともないけれど。
ただ好きだった。

この季節。
卒業の季節が近づくと。
切なくて。
愛しくて。
ただ思い出す。
幼く一途だった高校生の頃のことを。
そして最後に交わした、別れの言葉を‥


『卒業証書、授与。代表…』
司会をしてる先生の声なんて、途中から耳に入ってこなかった。
担任に自分の名前が呼ばれて、返事をして、立ち上がった。
一瞬、彼の横顔が見えた。
その時から、ずっと上の空で。
心臓がトクトクと音をたててた。
息が苦しくて、そっと目を閉じて深呼吸をする。
ゆっくり。ゆっくり。
瞼を開くと、もう彼は見えなかった。
体育館の寒さを自覚して、ふと意識がクリアになった瞬間、周りが腰をおろした。
私も慌てて腰を下ろす。
『も。焦らなくてもいーよ』
隣に座ってたさっちゃんが、笑いを噛み殺しながら言った。
私は自覚してしまった寒さから逃れようと、彼女にぴたりとくっついた。
くっついた部分だけが、ぽかぽかと暖かかった。

『校歌、斉唱。卒業生、在校生、職員、起立』
いつもはぼんやりしてる先生の、やけに気合いの入った声。
長いようで短かった3年間。
最後の校歌。
最後の式。
お別れ…。

まだ桜の蕾は固いまま、草も木も、寂しさばかりが目立つ。
春とは名ばかりの3月。
ひんやりとした風の匂いだけは、春を感じさせた。

『卒業式、終わったね。』
教室に戻って私たちは、思い思いにお喋りをする。
その一瞬が大切な気がして。
もう終わりなんだって自覚して。
窓の外を眺めた。
ここから見える風景を、色を、匂いを、雰囲気を…全てを焼き付けておきたくて。
でも私の視線は一点を見つめることしかできなかった。
『あ‥。彼、だね。』
さっちゃんが、ぽつりと呟く。
コクリ、と頷いた自分が。
人形のような、ギクシャクとした動きをしていることが。
なんだか恥ずかしかった。

『みんな卒業おめでとう。大学が決まったら連絡すること。先生方も心配してるんだからね!で、次の連絡‥』
担任がいろいろ話してた。
きっと大事なことばかり。
でも。
私は彼の事を考えるのにいっぱいいっぱいで。
涙が溢れてきそうだった。
お別れだ。
もうすぐ、お別れだ。
私たちの関係も、もうおしまい。


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