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無味乾燥
【ショートショート その他小説】

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無味乾燥-2

?『おまえらに涙を流す資格などない』〜Extermination person〜

 空が赤かった。燃える様な光が空を朱に染めていた。雲はその流れを止め、今にも消えそうな人の心を移した涙に似ていた。そんな悲しさを秘めた空に愁(うれ)いさを秘めた地上にオレは立っていた。こんな時間に奴らは出やすい。真正面には古びた神社がある。こういう所を奴らは根城にしているから、気を付けなければならない。だが、オレは奴らを誘い出す為にこうして立っている。奴らを倒す為に……。



 その日は夏の中でもとても暑い日だった。太陽が真上に上がっているので、カンカンに照りつける。こんな日はどこにも行きたくないし、たとえ依頼があっても引き受ける気がなかった。だが、運が悪い事に依頼がきてしまった。依頼がきてしまったからには、引き受けなければならない。重い腰を上げて依頼人から話を聞く。
「あれ、長(ちょう)さん?」
「ああ、依頼したいだが……」
「前も依頼くれたよね? そんなに困っている事あるんだ?」
「ああ、西のほうにあの神社があるだろ? 知ってるよな?」
 話が微妙にかみ合っていないが、この二人の会話はいつもかみ合っていないので気にする事はない。
「知らない。どこにあるの?」
「あのなぁー。あの長岡さんの所を更に西に行ったところの神社だよ」
「あの古びた神社だよね?」
「そう、そう。その長岡さんが困ってたから、キミの出番じゃないのかな?」
「わかりましたよ。はあ」
 多少めんどくさい所もあった彼だが、いつもお世話になっている長さんの依頼は断れなかったので、いつものようにある物を持って長岡さんの所へ向かう。長岡さんはこの辺では、一番の金持ちなのだが気取らない性格で皆から愛されている。しかし、それを良く思わない人物もいるのも確かである。
「や、長岡さん。困った事あったんだって?」
「キミか。そうなんだよ。あの神社あるだろう?」
「うん。それが、どうしたの?」
「夜中誰もいないのに、明るいんだよ。どう思う?」
「本当は誰かいるんじゃないの?」
「誰かいるなら、影が写るだろ? でも、何も写らなかったよ?」
 彼は長岡の返事を聞くと、しばらく考え込んだ。今全国で話題になっている妖しき怪物を退治する事を生業としている彼にとっては、まさに正解だった。
「良いでしょう。なんとかしましょう」


 空が赤かった。燃える様な朝焼けが空を朱に染めていた。雲はこの時間帯存在を消し、ただ朱だけが見えていた。そんな哀しさを秘めた空に憂(うれ)いさを秘めた地上にオレは立っていた。そんな時、奴が現れた。全身に火を纏った樹だった。
「おやおや、五行思想に反しているではないですか?」
「我々なんぞに人間の常識なんぞ通用せんわッ!!」
「活発な子供だ。お喋りはここまでで良いか?」
「我を侮辱する気か!!」
 そういうとその樹は炎の実を投げつけてきた。彼は背中に背負っていた刀で、すべてを叩き落とした。まだ月が出ている事を確認し、叫ぶ。
「月が照らす光。太陽が照らす光。人間の温もりが照らす光。人間の優しさが照らす光。すべてが集まらん時、妖しき物を滅せず」
 縦に思い切り切り裂いた。最期の抵抗で枝を絡ませようとしたが、彼には効かない。
「我が……人間ごときに……」
妖しき物は涙を流しながら消え去った。彼はこうはき捨てた。
「おまえらに涙を流す資格などない!」


 翌日、すべてが解決したと告げた。
「しかし、徳川の世に入ってから変なことが起こる頻度が多くなったよ」
「あれ、長岡さんもそう思う?」
「ああ、あの合戦以前は色々大変だったけど、変わった事は起きなかったもんな」
「そうなんだよね。これから、オレの仕事は終わることがないなぁ」
そんな江戸時代のお話。


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