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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-72

 かり、かり、かり……

 と、問題が解かれている間、桜子の顔つきは真剣なものになっている。いろいろと喧(かまびす)しい彼女だが、その集中力は卓抜したものがあり、一度何かに意識を入れ込むと、それが一段落するまでは呼ばれてもなかなか気づかない。
「……He was 【  】 to be the fireman……」
(used,used……A、A……)
 センター試験を模したそのテキストは、まず英文法に関する問題が並ぶ。集中力に優れた桜子は、暗記モノは得意中の得意だ。淀みのない思考で、選択肢の中から回答を選び、問題を解いていく。
 そして、文法関係の細かな問題を通り抜け、課題にしている長文問題にさしかかったとき、水が流れるように順調だった彼女の思考が一旦途切れた。
『Welcome to the baseball park!』
 と書かれた始めの一文……特に、“baseball”という部分に反応したのだ。
 桜子は、これがテストの問題だということを忘れ、その長文を食い入るように読み始めた。時間が勝負となる試験の問題だというのに、その読み方は丁寧かつ悠長だ。
『野球場へようこそ! 今日も、興奮していっておくれ!』
(そういえば、まだ、球場で試合したことない)
『こんなにも歴史の長いスポーツだから、いろいろなことがあるけれど、中でも“Pretty League”ってのはベリーファンキーだったぜ!』
(映画で、見たことある。確か……)
 “プリティリーグ”……日本軍の真珠湾攻撃から始まった太平洋戦争の最中、米国内の主だった成人男子が徴兵を受け、その影響でメジャーリーグからも人材がどんどんと失われ、米国の文化にもなっていたその興行が危機を見せたときのことだ。
 女性ばかりのチームでリーグを結成した“プリティリーグ”……ほんのわずかな期間であったが、男顔負けに活躍する女性たちの姿に世間は興奮し、熱狂した。一時期とはいえ、女子のプロ野球リーグが存在し、活況を呈したというのだから、さすがは本場である。
(女の子だって、野球が好きな子はいっぱいいるもんね。あたしもそうだし、京子さんも、品子さんも……晶さんだって)
 “晶さん”とは、蓬莱亭によくきてくれる常連さんである。とても綺麗で、闊達としていて、寡黙な旦那さんをしっかり支えている彼女に、桜子は憧れを抱いている。その映画のように、“隼リーグ”で活躍していたのを、龍介が同じチームにいたから桜子は良く知っていた。
(野球か……)
 どうして、こんなにも惹きよせられるのか。不意に高鳴りを始めた自分の胸は、青空の下で野球をしている自分の姿を夢想し、静かな興奮を高めていった。
(草薙君も、双葉大を受けるって言ってた)
 桜子が描く架空のグラウンド内に、彼の姿もある。
(そしたら一緒に、いっぱい野球ができるんだ)
 いつのまにか問題を解いていた集中力は途切れ、桜子は想像の翼を大きく広げ、その中で雄飛している自分と大和の姿を見ていた。
「………」
 どきっ、と大きな鼓動が胸で鳴る。逢ってからほとんど時間を経ていないはずなのに、桜子の中で大和の存在がはっきりとした形を持ってきた証である。
 彼のことを思うと、なぜか体が熱くなった。
(一緒に、いっぱい……)
 大和の側にいられる。同じ大学に進めば、必然的にそうなる。しかも、もし大和が同じ野球部に入ってくれれば、その縁のつながりは、解きようがないほどになるだろう。
(きっと草薙君……)
“双葉大学を志望している”とは言っていたが、“軟式野球部に入る”とまでは明言していない。
(一緒にいて……くれるよね)
 願望はいつしか、その輪郭がはっきりとしたものに形を成し、桜子の全身を駆け巡って“熱”を生んだ。
「あ……」
 太股の奥が、特に熱い。もじり、とその部分をうごめかしたとき、その部分にこもっていた熱量は、今度は妙に痺れる甘い感覚を孕んで、桜子に訴えかけてきた。
(………)
 一瞬の躊躇い。しかし、桜子は、シャーペンを手にしていた右手をそのまま太股の中に忍ばせると、中央の盛り上がった丘の頂点を、芯を出すためのノックとなっている丸い部分で軽く押してみた。


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