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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-7

「僕は、む……草薙大和」
 旧姓の“陸奥(むつ)”を名乗ろうとして、言いなおす。もう自分は母方の姓である“草薙”に戻っているからだ。
「草薙君だね。よろしく!」
 さ、と差し出された大きな手。大和は引き込まれるように左手を伸ばすと、それを待っていたかのように桜子は嬉しそうに握り締めた。
(うわっ)
 凄い握力だ。フェンスから引き剥がされた時も、平手打ちも食らった時も思ったが、彼女は非常に力持ちである。“メガトンアタッカー”と異名をとったその怪力を、大和は自ら体感することになった。
「蓬莱さんは、その……」
「うん?」
「脚の具合、どうなのかなって」
 訊いていいものかどうか迷ったが、思い切って訊いてみた。バレー界のホープだった彼女の回復具合が、急に気になったからだ。
「とりあえず、まぁ、運動する分には問題ないよ」
 左足を持ち上げて、ひらひらとさせる桜子。
 学校帰りということもあり、制服のままだから桜子はスカートを穿いている。今の世相にならって“短め”ともいえる裾の部分がふわりと浮いて、その健康的な太股の瑞々しさが一瞬だけ視界に入った。
(わっ…)
 慌てたように視線を反らす大和。“アイドル”として黄色い声援を浴びていたが、彼本人は純朴そのものである。わずかな期間、ひとりの女性と関係を持ったことはあったが、それでもまだまだ垢抜けない。
「でも、バレーは無理かな。できないことはないけど、前みたいには派手に動けないと思う」
 そんな大和の“照れ”にも気づかず、桜子は左足を挙げたまま言う。
「そ、そうなんだ」
 太股の方を見ないように、彼女の足首に視線を移す大和。
「残念、じゃないの?」
「え?」
「だってさ……」
 あれだけの活躍ができたスポーツだったのに、以前のような動きができなくなったのだ。それに対して、なにかしら無念の気持ちを抱いても当然だろうに、この桜子という少女にはその陰が全くない。
 そんな大和の心根を理解したのか、桜子は爽快な笑みを見せた。
「まぁ、アキレス腱を切っちゃったときは“あ〜あ”って思ったけど、落ち込んでたってケガが良くなるわけじゃないから。それに、運動は充分できるんだし、どうせなら新しいスポーツを始めようかなって、考えてるんだ」
「そうなんだ」
 その前向きな様子に、大和は感心するばかりだ。
「野球をするの、あたし」
「えっ」
 思いがけない単語の出現に、大和は息を飲む。
「ほんとはバレーよりも好きなんだ、野球」
「へ、へぇ……」
 野球が好きでしかも上手な女の子は、身近に二人知っているので珍しいということもない。それに、彼女の体格と怪力なら、ひょっとしたらいい選手になるかもしれないと、大和は思った。
「硬式じゃなくて、軟式なんだけどね。お兄ちゃんが草野球のチームを持ってるから、そのチームに入ってるの、あたし」
 えへへ、と嬉しそうな桜子。その表情を見るに、心の底から“野球が好き”なのだろう。
「あの……あたしも、訊いてもいい?」
 不意に、桜子が話題を振ってきた。大和は頷きで、それに応える。どちらかというとこちらが訊いてばかりいたから、桜子の問いにも何か答えを返してあげなくては不公平だろう。そういう生真面目さは、死別して久しい実の父親に似ていると、いつも母から聞かされている大和である。
「草薙君は、腕、どうなの?」
 三角巾で吊るされているから、自分が腕を故障しているのは見た目にも分かる。それに関心を寄せるのは、当然ともいえるだろう。
「ちょっと、肘をね」
 腕を三角巾から外すと、裏側の位置に刻まれている手術痕を見せた。あまり人に見せるものではないし、心配になって何度も様子を聞いてくる母親に対してさえ、強いて見せようとしなかった大和であるが、何故か桜子には素直になっていた。


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