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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-245

「よし、晶。しっかり、頼むな」
「ええ」
 亮から直接ボールを受け取り、晶はマウンドの上に立つ。淫らな空想に火照っていた身体は、上手い具合に試合への興奮にシフトを変えていた。高まっていく集中力が、ヌルヌルに濡れている部分の違和感を忘れさせた。
「プレイ!」
 栄輔が試合の再開を告げる。ふと、ひとつ小さな呼吸を置いてから、亮が構えるミットの位置を見据えた。初球から強気に、内角を要求している。
(さて……と。ピシッと、いかなきゃね)
 そして、しなやかに足を高く上げるモーションから、鋭い直球を繰り出した。
「ナイスボールだ!」
 良いボールを投げると、亮は嬉しそうな顔をする。投げ返すボールにもそんな気持ちがたくさん乗っていて、言葉を交わさずとも心の通い合いを強く感じるのだ。
(世界で一番幸せだって、あたしも言えるわ)
 好きなことをめいっぱいできる。それも、愛する人と共に…。これ以上の幸福は、何処を探しても見つからないだろう。野球を通じて手に入れた幸せと喜びを全身で現すように、晶は勢いのある投球モーションから、鋭い球筋のストレートを亮のミットに投げ込んだ。
 マウンドの上を勇躍するその姿…。それは、とても美しいものだった。


 ドラフターズと双葉大軟式野球部との練習試合は、最後の局面を迎えた。

 【双葉大学】  |000|010|01 |
 【ドラフターズ】|100|000|00 |

 手書きの黒板式スコアボードが示す、これまでの戦況。双葉大は初回に、1番の亮、2番の航君、3番の晶による電光石火の攻撃を喰らい先制こそ許したが、その後、4番の大和がいずれも得点に絡む一打を放って、逆転に成功した。
 しかし、攻撃力の要となっている岡崎と雄太が、亮と晶の黄金バッテリーに対して手も足も出ず、いずれも無安打に封じられている。そのため、2部リーグのブロック戦で相手を牛耳ってきた爆発的な攻撃力は、すっかり陰を潜めていた。
「アウト!!!」
 9回の表。下位打線から始まる双葉大の攻撃は、あっさりと三者凡退に終わった。品子も、吉川も、衰えを見せない晶のストレートの前に連続三振を喫し、岡崎は何球かファウルで粘ったものの、最終的には平凡なセカンドゴロに打ち取られてしまった。
(これが、三連覇を成し遂げたバッテリーの実力か…)
自分が、“井の中の蛙”であったことを思い知る。無安打で試合を終えたのは、岡崎にとって久方ぶりの屈辱であった。
 1点を勝ち越しているとはいえ、余裕など全くない。結果が数字に反映しない練習試合でありながら、公式戦にも似た緊張を抱えて、9回裏の守りにつくナインたち…。
 その緊張は、マウンドの上に立つ大和にも存在していた。手のひらが汗ばんでいるのは、その何よりの証であろう。
(この回だ。あの人の打席が、廻ってくる)
 ロージンバッグで指の滑りを取りながら、相手の打順を計算してみる。先の回は7番打者で終了したから、大和が望んでいる対決は、このイニングの中で確実に用意されていた。
(あの人を、抑えたい)
 それは、1番に座っている亮のことである。この試合では、攻守にわたって並ならぬ存在感を発揮しており、相当の実力を持った選手だと言うことは疑い様がない。
 だからこそ、普段は隠されている彼の負けん気が、はっきりと湧き上がっていた。
「プレイ!」
 試合の再開が告げられると、間を置かずに大和は初球を投じた。桜子の構えた外角低めの位置に、直球を投げ込む。
「ストライク!」
 小気味の良い音を残して、1ミリと違わぬ位置を貫く強烈なストレート…。自分でも驚くほどに、腕が良く振れている。
(藤島さんのおかげだな)
 バッティングセンター・“豪快一打”でアルバイトをするようになってから、時間の合間を見ては、先輩従業員である藤島 満とも投球練習を重ねてきた。


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