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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-220

(草薙の球。結構いいじゃないか)
 鋭い回転力を有した伸びとキレのある球…。それが、受けたグラブの中で手応えを残すのだ。軽く流す感じの投球ではあるが、これほどの球威を感じさせるストレートは久しく見たことが無い。
「………」
 かつて球界を席捲した“甲子園の恋人”。今は遠い時間の彼方に霞んだその名前を、岡崎は久しぶりに思い出していた。
 なぜなら彼は、その“甲子園の恋人”と、甲子園で対戦している。女子たちがこぞって黄色い声援を送っていた童顔で華奢な投手の右腕から投じられた豪速球を、彼はその場で体験しているのだ。
(これは、その片鱗なのか)
 “甲子園の恋人”と呼ばれていたのは、“陸奥”という旧姓だった頃の大和である。 彼の口から訊いたわけではないが、同一人物だということは岡崎も気がついている。
「アウト!!」
 岡崎の思考を他所に、試合は進んでいる。若狭はチェンジアップを打たされて、注文どおりのダブルプレーに打ち取られていた。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 そして7番の浦は、三球三振。桜子の安打は生かすことができなかったが、大和の放った本塁打によって双葉大学は、ドラフターズを相手に2−1と勝ち越した。
「ピッチャー、CHANGEしますね」
「おう。わかった」
 7回の終了と同時に、主審の栄輔に近寄ってきたエレナは、投手の交代を告げる。大和は既に、マウンドに立ってプレートの感触を確かめていた。
 規定の投球練習を終えた後で、桜子がタイムを取って側に寄ってきた。ちなみに、投手交代直後の打ち合わせは作戦タイムの回数に入らない。
「いい球、来てるよ」
 軽めの投球とはいえ、桜子のミットを貫く手応えはかなり良い感触であった。
「この回は、木戸さんや晶さんには廻らないかな」
「ちょ、ちょっと! 廻ったら、大変だってば!」
 8回裏の相手の攻撃は、5番から始まる。この状態で上位に打順が廻るとすれば、塁上に走者を許し、ピンチを迎えた時以外にありえない。
「びっくりすること、言うんだから」
 冗談ともつかない大和の言葉に苦笑しながら、桜子はこの回に廻ってくる相手のオーダーを数えてみる。
「下位で怖いとすれば、7番の新村さんだね」
 助っ人選手である上位の三人を除くと、野球経験が豊富なのはドラフターズ結成の一翼を担った新村である。自他ともに認める“守備の人”ではあるが、侮って抑えられるほど打撃が悪いわけではない。彼もまた、亮や晶、エレナ、栄輔と同じ城南第二大学のOBであり、龍介と共に“上級生クィンテット”の一人として奮闘していたのだ。
「でも、今日の新村さん、インコースの球にタイミングあってないから。そこをきっちり攻めていけば、大丈夫だよ」
「わかった」
「じゃ、がんばろうね!」
「うん」
 桜子が定位置に戻ると、大和はマウンドの上で独りになる。
(………)
 グラウンドの中心に立ち、ゲームの起点になるのが投手だ。肘を故障してからは、久しく遠ざかっていた、この独特の雰囲気…。
 2部リーグの公式戦で1試合、これまでの練習試合で3試合、イニング数にして20回を越える経験を積み直したことで、大和の中にあったマウンドに対する違和感は取り除かれていた。マウンドから遠ざかっていた気持ちの上でのブランクを、彼は克服したのだ。
 残るのは、身体的なブランクである。
 久しぶりに先発のマウンドを踏んだブロック戦での試合は、味方の守備に助けられながら奮闘したものの、完投もできずにマウンドを雄太に譲り渡した。投手としての基礎体力が低下していることを痛感したその日以来、大和は徹底的に下半身を鍛え直してきた。
 朝夕の日課としているウォーキングコースに、近場にある神社の階段の昇降を加えた。二往復すれば百段にもなる階段を昇り降りすることで、踏み込んだときの足の筋力を鍛えたのだ。また、有酸素運動を地道にこなすことで、心肺機能を高める効果もあり、それは、根気とスタミナの強化にもつながる。投手は、投げ込むよりも走り込むことが最も重要と言われる所以である。


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