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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ7-5

後日、二度目の全体練習。

「どうしよ…寝坊しちゃった…」
悦乃は慌てながらキャンパスを駆けていた。
「あった…この部屋…遅れてごめーん!」
先日、自宅でそうしたように力強く個室の扉を開けた。
「…………え?」
『なに突っ立ってんだよ。閉めないと音が漏れるだろ』
瞬はそう言いながらギターのチューニングをしている。
一人ずつ顔を見ていくと、他の四人はニコニコしている。
それにしても、部屋の中心に置いてあるキーボードが気になった。
「悦乃、ピアノ弾けるんだってね。」
由貴は微笑む。
「瞬くんがね、“悦乃にキーボード弾かせるんだ”って言って、朝からずっとキャンパス中走り回って見つけてきたんだよ♪」
葵はウインクした。
「軽音部から借りてきたらしいよ」
青空はスティックを回しながら笑った。
「なんや瞬、悦乃ちゃんに何も言えへんの?」
灰慈が茶化す。
『………練習やるぞ』
瞬は珍しくニコッと笑った。
「………ありがとう、瞬くん」
悦乃は顔を真っ赤にして微笑んだ。

「よし!やるわよ!」
由貴がマイクを握り、軽く叫んだ。
青空がテンポよくスティックを叩く。
そしてその瞬間、全ての音が混ざり合い、派手な演奏が始まる。
「いい感じになってきたわね…葵、あたしたちもうまく歌うわよ」
「うん♪」
前奏が終わり、演奏に二人の歌声が混ざり合う。
段々と“バンド”が形を成してきた。




そして学祭当日。
朝から、出店やフリマ、弾き語りなどのイベントは多くの学生や来客で賑わっていた。
バンドコンは昼過ぎからなので、午前中は六人で回ることにした。


クレープ屋や占いなど、どこも学生レベルの胡散臭いブースを一通り回ると、かなりの時間が過ぎていた。
「そろそろ行こうか」
青空が促すと、六人はバンドコンの控え室に入り、チューニングなどで順番が回るまで時間を潰す。
「………はぁ」
さすがの葵も緊張の色を隠せない様子。
悦乃は盛んに指を動かしている。
青空も延々とスティックを回し続けている。
しかしその中でも別格なのは灰慈だ。
鏡を見ながら入念に髪をセットしている。
『余裕だな』
「……今まで練習したけん。あとは力を出すだけや」
「………そうね」
由貴は深呼吸しながら灰慈に賛同した。
すると、ドアが開いて運営の学生が“お時間です”と告げた。
いよいよ開幕だ。


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