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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-71

「エイスケ、今日はかっこよかったです」
 ビールが半分ほどなくなった後、急にエレナが言い出した。それは、慰めなのだろうと思い、長見は曖昧に笑っておいた。すると、何が気に入らなかったのか、エレナは少しとがった口調で、
「エイスケ、もっと自分を褒めてあげてください」
 と、ずずいと傍によってきたのだ。
 その思いがけないエレナの所作に、あわてて身体をずらして間を取ろうとしたら、それを追いかけるようにして彼女はますます身体を寄せてくる。
 そうこうするうちに、壁際に追いやられ、気がつけば二の腕を掴まれて、
「お、おい……」
 そして、何かを言う前に、唇は塞がれていた。それが、事に至るまでの顛末。
 キスの記憶は、出会った頃(※第3話)にさかのぼる。本人も言っていたとおり、それは、欧米風の挨拶の一環なのだと思い、勘違いしないよう、気にしないように努めていた長見だった。
 だから、あれ以降、エレナとはいわゆる深い仲になっていない……と思っていた。確かに、何度も部屋に呼ばれて食事を一緒にしたり、バッティングセンターで指導してもらったりしていたが。
 しかし、いま、エレナ自身がその胸のふくらみに、男である自分の手を押し付けている行為は、どう考えてもその挨拶にとどまるものではないだろう。これだけまともに触っているのだから、セクシュアルハラスメントとして訴えられたとき、“挨拶だったんだよ〜”と言い逃れしようとしても、いいわけにもならないだろう。
(………って、逆か!?)
 ことあるごとに“ぼいん”と震えて、どうしても視線がいってしまった部分に、エレナが自ら押し当てているのだ。自分の意思で、自分の胸を相手に触らせているのなら、それはセクハラではない。
 上目遣いに潤む青い瞳に、頭が飛びそうだった。
(あ、あう……)
 しかし、どうしても、その先に進めない。
「やっぱり、だめ、ですか………」
「……え?」
「わたしでは、だめ、なんですね」
「なに、を?」
 エレナの顔が、下を向く。つ、と零れたものは、ひょっとして涙だろうか。
「エイスケの心には、まだ、アキラが住んでいるのですね」
「!?」
 意外な言葉だ。そんなつもりは、なかったのに。
「わたしが入り込めるところは、ないんですね」
「……待て」
 長見の思考が、急に覚めた。なんというか、心が清涼を取り戻したように、穏やかなものに変わってゆく。
「一時は、そんな気もあったけどよ、今はこれっぽっちもない」
「でも」
「まあ、エレナの眼からそう見えたんなら、ひょっとしたらまだ未練みたいなやつが少しはあったのかもしれねえ。……でもよ」
 長見は、空いていた左手を動かす。エレナの拘束から逃れたそれは、しかし、再び彼女の手のひらを強く掴んでいた。
「エイスケ」
 涙の浮かぶ瞳が、長見のところに戻る。いつもの無邪気さからは想像もつかない、儚げに弱さを見せている瞳。
 ぐ、と一度息を呑んでから、彼は言った。
「好きだ」
「………」
 沈黙。長見は、平常のリズムを忘れたように早鳴りを繰り返す、自分の心臓の音がうるさく感じた。
「通じなかったか? I LOVE YOUだ」
「………」
「……発音、まずい?」
 ふるふると、エレナは首を振る。
「PARDEN ME」
「?」
「もう一回、言ってください」
「あ〜。恥ずかしいから、いやだ」
 視線をずらしつつ、そう言うと、ずずず、とエレナのダイナマイトボディが押し寄せる。すでに背中は壁によっていたので、柔らかいものと固いものに挟まれる形となる。


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