『STRIKE!!』(全９話)-255
ゴッ！
「うおおぉぉぉ！」
櫻陽大のベンチから起こる歓声。晶のストレートを叩いたその打球は、二つの猛烈なベクトルが重ね合わさったかのような弾丸ライナーとなって空気を切り裂いていた。
「ファウル！」
一瞬、本塁打を思わせたその打球はしかし、間一髪のところでポールを逸れていった。もしもこれが、内側からポールを巻いていたら、逆転サヨナラ２点本塁打となって、城二大は敗れ去ることになっていた。
「おのれ！ 圧（お）されたか！！」
手応えは充分だった。しかし、球威に圧された。彼にしては珍しくも、悔しさを顕にする管弦楽。確かに、恐ろしいまでにタイミングはあっていたし、芯も喰われていたから、ファウルになったのが奇跡のように思える、肝を冷やした一打ではあった。
（だが、チャンスだ）
それも、ファウルになったのならば逆にこちらの好機になる。会心の一打が、ファウルになったというかすかな落胆は、少なくともその心理に影響を生むだろう。それが、尊大不遜な管弦楽であっても、例外はないはずだ。
ぐ、と力をこめる管弦楽のグリップ。亮は、その構えを見て、握り拳のサインを送った。
「………」
まだ、この打席では一度も投げていない球。
「！」
レベル０。レベル２を頑なまでに多投され、その照準が一点に絞られていた管弦楽は、体勢を大きく崩した。
「ぬ、ぬぅ！」
アウトコースへの、チェンジアップ。管弦楽のバットは、途中でその動きを止めた。
スパン……
亮のミットが、軽く鳴る。微妙なところをかすめたそのボール。
「ボール！」
「！！？？」
思い描いた言葉はしかし、全く逆の響きと現実を亮に与えた。
（そんな！？）
確かに、ストライクゾーンをかすめたはずだ。思わず亮は、振り返って審判の方を見る。
「………」
しかし、すぐに頭を冷やした。
懸命にジャッジをしている審判に、抗議をするというのは侮辱も甚だしい。それに、ストライクに見えたのは自分の贔屓目かもしれないのだ。勝利を焦るあまりの…。
（ふぅ）
亮は気持ちを落ち着かせようと息を吐く。今度はこっちが落胆を覚える結果となり、いつになっても勝利の女神という存在は、その気まぐれが治らないことを思い知った。
（どうする？）
これで２ストライク、３ボール。本当の意味での、ウィニングショットを決めなければならない。
（レベル２か、それとも０でいくか）
亮は決めあぐねた。緩い球を投じられたことで、管弦楽の脳裏にはその球筋が植え付けられ、レベル２に対する読みが狂いを生じているはずだ。それならば、迷いなくレベル２を投げ込めばいい。
しかし、もしも彼が頑なにレベル２を待っていたとしたら？ そのとき、レベル０を放れば間違いなく打ち取れるだろう。おそらく、打ち取る確率はレベル０の方が高いように思える。