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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-16

「近藤」
「あっ……」
 だから、今一度、こんどはその頭を包むように、優しく柔らかくかき抱いた。幼子をあやすように、凍えた子猫を暖めるように。
「多分、俺…近藤に惹かれてる」
 その耳元で、優しくささやいた。
「ビデオで何回も見た。マウンドの近藤、格好いいから」
「………それ、口説き文句、なの?」
 軽口が出るくらいには、晶も落ち着いてきたらしい。
うう、と言葉に詰まる亮。
「俺、野球しか能がなくてさ。当たり前だけど、女の子と仲良くなったこともないから……」
 くす、と軽く吹く晶。いつのまにか、その両腕を亮の背中に廻して、亮の言葉を待つ。
「俺、近藤を手に入れたい。でも、今の近藤じゃ、俺は本当の近藤を手に入れたことにならない。多分、いま、近藤を抱いたら、この気持ちは嘘になる」
 自分でも何を言っているのかわからない。しかし、本能の欲望が先んじての性行為から始まる恋愛に、ある種の拒絶反応があるのは確かだった。兄の務にも指摘された融通の聞かない真面目さは、不器用そのものだ。
「わかった」
「ん?」
「優しいね、アンタ……」
 晶は、やはり自重の全てを亮に預ける。肩に乗る、湯上りの彼女の長い黒髪が、ほのかな香りと艶やかさで魅惑し、亮の胸を鳴らす。
「あたしを、大事にしてくれてる」
「………」
「あたしも、自分を大事にするね」
「そっか」
「でも、ひとつだけお願いしていい?」
「?」
「いっしょに、眠りたいよ……変な意味じゃなくて、ね」
「ああ……」
 今日の試合は早朝だったから、亮も少し身体が気だるい。このまま一眠りすれば、とても気持ちのよい睡眠が取れるだろう。……理性が持てば、だが。
「じゃ、俺からもお願い」
「ん?」
「服を、着てくれるか……?」
 そのためには、裸体の晶にコーティングを施す必要があった。



「覚えてるよ」
 同じベッドに、手を握りあって横になる。それは、晶が求めてきた行為だった。お互いのぬくもりを、まずは手のひらで確かめ合う。そして、二人に共通する話で、心を埋めあっていた。
 晶は、亮の予備のパジャマを身につけている。ユニフォームよりは、そっちがいいと彼女が言ったのだ。
「一球も投げられなくて、悔しかったなぁ」
 悪戯な甲子園の風を、今の晶は穏やかな気持ちで思い出していた。
「俺は、近藤の球を直に見られなくて、悔しかった。楽しみにしてたんだぜ? 組み合わせで、いきなり近藤のいる高校とやれるって決まったときは、マジで踊ったよ」
「うふふ」
 不意に、晶は笑う。亮としては、変なことを言った覚えはないのだが。
「木戸、野球のことになると饒舌」
「う……」
「こんなに、美味しそうな料理が目の前にあるのに」
「そんなこというと、俺、床で寝るぞ」
「あー、ごめんごめん」
 離れかけた亮の手を逃すまいと、晶が一層強く握り締めてくる。そんな彼女の仕草に、少しだけ亮の心が躍る。
「近藤」
「なに?」
 そういえば、ひとつ大事なことを忘れていた。
「前にいったこと、もう一回考えてくれないか?」
「? ……野球部?」
「うん。その……今日のことで、野球がいやになってなければ……」
「あたしのことが、必要?」
 晶が、艶めいた瞳で見上げてくる。その、何かを問うような眼差しで。
「必要だ。近藤が、欲しい。俺は、近藤とバッテリーを組みたい」
 だから、亮は応えた。あくまで、野球を離れないあたり、亮も真面目が過ぎるのだが。
 そんな亮だから、晶は可笑しくてたまらない。そして、初めて沸き起こる感情も自覚した。
 真から、必要とされることの喜び。そして、この人の気持ちに応えたいという思い。


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