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■LOVE PHANTOM ■
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***君の青 @***-2

 僕の家は喫茶店を経営している。いわゆる自営業というやつだ。
 名前は「OZ」。オズの魔法使いから取ったことは読めば明らかである。年中無休の店なため、当然マスターの親父がいない間は、代わりに僕が店番を務めなければならない。つまり、自分で稼げとはそういうわけだ。ここでの収入が、そのまま僕の生活費に化けるのである。
 再び店内へ戻ると、僕はカウンターの前に並んでいるスツールへ腰掛け、頬杖をしながら、ぼんやりと昨日見た夢のことを思い返した。それは、とても懐かしい記憶の断片だった。
「青い鳥、か」

 僕がまだ小さな頃。隣りには、いつも彼女がいた。
 いたずら好きの子猫のような大きな瞳がやけに印象的で、思い出す時にはいつもそこから描いていってしまう。彼女の名前は、洟鶏雫。僕とは同い年で、家がおむかいさんだった。”だった”と過去形なのは、今はもうどこかへ引っ越してしまって、ここにはいないからだ。彼女と最後に顔を合わせたのが、確か中一の終わり頃だから、今から六年程前のことになる。突然家に来た彼女から、もう会えなくなる事を告げられた。親父さんの転勤が急に決まったらしく、家族全員がそれについていくとのことだった。彼女は笑いながら簡単に言っていたが、僕にとってはどんな重大ニュースよりも、ショックが大きかった。
 僕は、雫に特別な感情を抱いていた。友達としてではなく、一人の男として彼女を想っていたのだ。
 けれど、結局その気持ちは彼女に伝えることなく、湿った導火線のように僕の中で消えた。そんな彼女が店を出る時に僕に残した言葉は「青い鳥の本、借りていくね」だった。
 思い出す。僕も,そして雫も、この本で出てくる青い鳥の存在を信じて、それこそ毎日のように色々なところを日が暮れるまで探しまわったものだ。
 「懐かしいな」
 天井を見上げながら、僕は呟いた。
 と、その時。入り口に下げてある鈴が、カランと鳴った。お客だ。僕は急いで立ち上がり、開いた扉の方へ視線を向けた。
 「いらっしゃいませ!」





「OZ」の人気はまぁまぁのものだった。
 手軽な安さもさることながら、親父の煎れるコーヒーとお袋の作るチーズケーキは、息子である僕もひいきめなしで絶賛できた。そして、店にくるほとんどの人が、この二つの絶品メニューを目当てに足を運んでくるものだから、マスター代理の僕にとっては、プレッシャー以外の何ものでもなかった。
 はっきり言って僕のコーヒーは並み、もしくはそれよりわずかに上と言ったところで、親父に追いつくのはまだまだ先のことだろう。
 「コーヒーとチーズは、品切れ?」
 カウンターの隅に座っている無精髭のおじさんが言った。
 「はい。二つとも材料を切らしてまして。すみません」
 愛想笑いを作りながら、頭を下げる。今の僕にできることと言ったら、ぜいぜいこんなもんだ。まずいコーヒーを出して、お客の信用を失うよりよっぽどいい。それに、このことで頭を下げるのは今日に始まったことじゃない。二人がいなくなってから今日まで何人のお客に頭を下げたのか自分でもわからないほどだ。いいかげん慣れてしまった。
 「あれ?今日、久世君いないんだ」
グラスを洗っていると、背中の方から声が聞こえた。振り向いてみると、声の主は僕のよく知る人、細井さんだった。なんでも、親父とは昔からの親友らしく、この人だけは親父のことをマスターではなく、久世君と名前で呼んでいる。名は体を表すというのか、細井さんはとても細身で背丈もそんなに高くない。僕もそれほど大きい方ではなかったが、それよりもまだ小さく、まさに吹けば飛ぶといった感じだ。


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