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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■最終章■-2

「ねぇ靜里、男の子かな、それとも女の子かな」
と幸子が聞いた。
「うーん。私は男の子だと思うな、なんとなく」
人差し指を口元に当てながら、靜里は言った。
「うん、あたしもそう思うよ。だって二人とも男の子ほしがってたでしょ。ほら、去年の結婚式の時だって男の子供がほしいって言ってたじゃない」
「そうだね。きっと男の子だね」
他愛のない話をしながら、二人は笑った。



長い並木道をすぎ、二人は大きな車道をまたぐ歩道橋を上っていた。
「ちょっと、靜里。歩くの早いよ、もう少しゆっくり歩こうよ」
きゅうになっている階段の途中で、息を切らしながら幸子が足を止めた。息を切らし、先を行く靜里を見上げる。すると靜里は、既に上り切って下を見下ろし言った。
「変なの普通に歩けば幸子の方が歩けるのに、何で階段だとすぐにばてちゃうの?」
それを聞いた幸子が言う。
「だって、きゅうだよこの階段」
「いいから上がっておいでよ。ここから周りをみると気持ちがいいよ」
そう言うと靜里は、視線を高いところへ移し、並んでいる街々を見渡した。そこには背丈の違う建物がそびえ立ち、その間を縫うようにして自動車や人々が行き交っている。忙しなく走るもの、ゆっくりと歩くもの、そしてわきの方で立ち止まっているもの。それぞれがここから見渡せた。
靜里は目を細め、何かを探すようにして、もう一度辺りを見渡した。一つのことを願い、探すセンサーの様に、辺りを見渡し、しばらくすると諦めたのか静かにまつげを伏せた。 「靜里」
階段を上り切った幸子が、後ろから声をかけた。靜里はたった今気がついたような顔をして振り返り、幸子を見る。
「もういないんだよ」
低い声で幸子が言った。
「うん、分かってるよ。でも探しちゃうんだ、また、始めてあった日のように来てくれるんじゃないかって」
苦笑して、靜里は言った。そんな彼女の悲しげな顔を見ながら、幸子が言った。
「靜里の気持ちすごく分かるよ。けど、いないんだよ、あいつはもう・・」
幸子は一度話すのを止め、空を見上げると、呟くようにして言った。
「いないんだよ」
広い空が、妙に近く見え、靜里と幸子は上を向いたままそっと目を閉じ、しばらくの間口を開くのを止めた。



喫茶店“OZ”の入り口には「CLOSED」の看板が無造作に立て掛けられていた。幾つかの小さな窓には、細かい柄のカーテンが掛けられ、中の様子が見えないようになっている。その中では、何人かのはしゃぎ声や、物音が聞こえてくることから中に人がいることは分かった。靜里と幸子の二人は外で立ち止まり、お互い顔を見合わせた。
「やっぱり他の人も招待されているんだね」
笑いながら幸子が言う。
「そうだね、まぁそれが当たり前でしょう」
そう言うと、同じようにして靜里も笑った。
「開けて見ようか?」
幸子は扉のノブへ手を当て、それをゆっくりと回した。すると中の空気が、一気に漏れ出すようにして、“OZ”での騒ぎがどっと外の世界へ広がった。驚いた幸子は後ろへ一歩下がり、目を点にしている。店内には、一体何人いるのか分からないほどの招待客で埋め尽くされていた。並べられている料理をがっつく者、ウイスキーをかけ合う者、中には肩を組んで、てんでばらばらの歌を歌っている集団も見ることが出来る。まさに訳の分からない状況である。幸子はその光景を目の当たりにしたまま、石化した。
その後ろで見ていた靜里は、幸子の肩を軽くたたくと、前へ進み出て言った。


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