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ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)
【コメディ 恋愛小説】

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ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-45

「…………ほっといて…」
とても普段の香織とは思えない弱々しい口調だった。
美弥にとっての香織はいつも強気で顔を合わせれば互いに憎まれ口を言い合う相手なのだがそれ故にお互いのことをかなり熟知しているのだ。
「バカなことを言わないでちょうだい! 今の貴女がどんな感じなのかわかってるの!?」
「うるさいわねっ! あたしがどんな顔してようがあんたには関係ないでしょ! お願いだからほっといてよ」
美弥の言葉に普段なら考えられないくらいの激しい口調で香織は拒絶の言葉を言い放ったのだった。
しかし、美弥もそれくらいで引き下がるようなヤワな性格をしていなかった。
「貴女ねえ、ふざけるのも大概にしなさいよ。今にも泣きそうな顔で私に凄んでもなんの説得力もないわよ。いつまでも醜態さらしてないでいいからこっちに来なさい!」
今度は美弥が香織を怒鳴りつけると、そのまま香織の腕を掴み有無を言わさずズカズカと歩きながら香織を引っ張っていくのだった。
その様子に周りのみんなが注目するのだったが、美弥のあまりの剣幕と睨みにその場にいた全員が目を逸らしてしまった。

「全く、なんで私まで公衆の面前であんな醜態を晒してしまったのかしら。これでは私のイメージがまる潰れだわ…」
香織を人気のない音楽準備室に連れ込んだ美弥はため息をつきつつ独り愚痴た。
「……あたしは別にあんたに何も頼んでないわよ…」
椅子に座らされた香織が俯いたままポツリと呟いた。
そして、その手にはケイの携帯が握られていた。
「まあ、貴女に何があったのか私は知らないし知る気もありませんが、この学園で私と対等に張り合える貴女がそんな調子では私も張り合いがありませんから今回だけ干渉させてもらいます」
美弥は香織に背を向けながらそう言うと窓から外を眺めるのだった。
この時、美弥は香織の為に長期戦をも覚悟していた。
もちろんそんなことを態度に出す彼女ではないというのは語るまでもなかった。
現実問題として美弥は香織のことを好ましく思っていない。
だが、それ以上に香織とは対等にタレントとしてではなく藤崎美弥個人としてケンカ出来る状況を好んでいた。
 
それから小一時間は過ぎただろうか。
窓から校庭での学園祭の出し物を見つめながら我慢強く待つ美弥と椅子に座りながら押し黙る香織であったが、とうとう香織が口を開いた。
「ねえ…あんたは自分が今まで信じてたものが急に信じられなくなることってある?」
質問の真意を掴みかねている美弥だったが、それでも美弥はその質問に即答したのだった。
「そんなことありえないわね。貴女が何を信じて何を信じられなくなったのかは知らないけど、少なくとも私は一回自分の信じたものに疑いはもたないし、どんなことがあっても信じ通すわよ」
窓を背に振り返った美弥は香織を見ながら更に言葉を続けた。
「そもそも私は誰かを信じるなんてことは簡単にしないけど、自分で信じると決めたことについては例えどんな結果になっても相手を責める愚はしないわ。だって、そうなった結果は相手ではなくてそれを見抜けなかった自分にあるんですもの」
そう言い切る美弥の顔は自信に満ちていた。
それを見ただけで彼女は自分の言葉に信念を持っていて、今までそれを実践してきたことを物語っていたのだ。
「あんたって意外と強いのね……」
「なんか引っかかる言葉だけど誉め言葉として受け取っておくわ」
香織の言葉に少しだけ嫌な顔をした美弥だったが、その言葉に刺がないことはわかっていたのでいつものような過剰な反応は見せなかった。
しかし、こんなやり取りはいつもの美弥と香織ではありえないので先程から美弥が考えていた香織が落ち込んでいる原因について突いてみることにした。
「ねえ、朱鷺塚さん。貴女ひょっとして好きな人のことで悩んでるの? まあ、ひょっとしなくてもだけどね」
美弥の言葉に香織の身体がビクッと反応した。
これで美弥の予想は確信に変わったのだった。


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