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僕とお姉様
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僕とお姉様〜僕の気持ち〜-4

「え、本当にあたしに?」
「だから口止め料だって」
「禁断の恋に泣いた口止め料ね」
「言うな!!!!」
「開けていい?」
「好きにして下さい」

僕はまた手すりに肘を付いた。カサカサと包みを開ける音が気になったけど、しょぼい中身にがっかりするところを見たくない。

「…箸?」

反応は、微妙。

「箸ですよ」

お姉様は箸を手にして裏返したり空にかざしたりしている。まるで初めて自分の箸を与えられた幼児のよう。

「でも何で箸?」
「別に」
「訳もなく?」

上目遣いで顔をのぞき込んでくるから、恥ずかしくて目を反らした。

「家ん中で割り箸使ってんのが気になっただけです」
「…それだけ?」
「すいませんね、おかしな理由で」

再び顔をお姉様に向けてすぐ目に写ったのは予想外の満面の笑みだった。

「すごい嬉しい!ありがとう、大切にするね」
「…あぁ、どういたしまして…」

口だけじゃなく心底嬉しそうに安物の箸を持って鼻歌交じりに階段を降りていく。
僕は黙って背中を見送った。
喜んでもらえて嬉しいのと渡す緊張感から解放されたおかげで、心の中はほんのりした暖かさに満ちていた。

でもその幸福感は数時間後には消えてしまうのだった。



相変わらずお姉様は僕より早く寝る。風呂上がりに部屋に戻るとベッドが占領されているという状況にもそろそろ慣れてきた。
寝顔と笑顔は可愛いのになぁ。
そう言えば、この人の名前…

「…朝子」

起こさない程度の声で試し呼びをすると、寝ている筈の口が小さく動いた。

「…けんた…」
「…」

呼ばれた名前は僕の物ではなかった。
『けんた』
あいつの事?あの元彼…
急激に体の奥がざわつき出す。
今日元彼に会った事、手切れ金の話、別れの原因…
この人に話さなきゃ。
まだ好きなんだから、話し合えばヨリが戻せるかもしれない。そしたらお姉様は
僕の前からいなくなる

ざわざわが消えない。

知り合って数日の人間がいなくなるだけなのに僕は何を恐れているんだろう。
何でうまく行かない事を望んでいるんだろう…



殆ど眠れずに出た結論はこうだ。
僕は新婚2人の中に放り込まれるのが嫌で同居を承諾した。だから出て行かれると嫌なんだ。
それ以外考えられない。
それに2人は別れたんだから、わざわざ言う必要ないよな。
そうだ。
僕は間違ってない。
僕は…


まだこの人と離れたくなかった。


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