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夢の雫
【ファンタジー 恋愛小説】

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夢の雫-4

「その程度ですか」
神柳はそれを片手で受け止めると、もう片方の手を重田に向ける。
すると重田は紙のように宙に舞い、壁に叩きつけられた。
「かはっ!」
手が直接触れていないため叩きつけられる力は弱いが、人一人動けなくさせるには十分であった。
神柳は重田がうずくまるのを確認すると、瑞穂に目を向けた。
「神山さんを楽にしてあげなさい」
「はい」
瑞穂は再び神山に近づき小刀を取り出す。
そしてその小刀を神山の胸に当てた。
「待て」
重田がよろよろと立ち上がりそれを制した。
声をかけられただけであったが、瑞穂はその手を止めてしまった。
瑞穂は正直驚いた。ただの人間が不完全とはいえ神柳の攻撃を受けまだ立ち上がれるのだから。
重田の鉄パイプを握る手に力が入る。
「ッ!」
その瞬間、電気が流れるような刺激が腕に走った。
さっきの攻撃で体の節々が悲鳴を上げているのだ。
だが、彼は尚強く鉄パイプを握りしめた。
まるですべての怒りを鉄パイプに託すように。
「裕介にそれ以上近づいたら、殺すぞ」
ピリピリと空気が張り詰める。重田は本気だった。

重田は高校入学後すぐに大きな怪我をした。
その結果部を追い出され、剣道を失った。
その時点で彼はすでに両親にも見捨てられていた。
それは猛反対を押し切り、進学はスポーツ推薦で取った男の当然の末路であったが、少しでも支えの欲しい当時の彼に取ってはその仕打ちはあまりに残酷だった。
だからといって、部活の人間も入学当時だったので、親しくはなく、友人と呼ぶには程遠い存在だった。
つまり彼はすべてを失ったのだ、友人、両親、そして剣道と言うアイデンティティまでも。
そんな時でも、幼なじみである神山が重田に声を掛けて続けてくれていた。
それは何の変哲も無いいつも通りの世間話だったり、時には人生相談だったり。
神山は重田が剣道と出会う前からの友人、だから剣道部員としての重田でなく、ただの友人として重田を見てくれるたった一人の人物だった。
そんな昔の彼を知っている神山は重田にとって唯一心を許せる相手になっていった。
結果、神山に重田は救ってもらった。
そんな事もあって、彼にとって神山は親友以上の存在であった。
いや命の恩人と言っても過言ではない。
だからこうして神山が傷つけられているのが、重田は我慢できないのだ。

「まだ、わかりませんか」
「ああ、わからないな。お前が強かろうが弱かろうが、関係ない。ただダチをやられ
た怒りが収まらないんだよ!」
「退きませんか?」
「退かねぇよ」
重田は言い放った。
堂々と覚悟を決め、その言葉に一点の曇りもなく。
そんな重田を見て神柳は肩をすくめた。
この男は気絶でもしない限り、どんなにボロボロになっても自分に襲いかかってくるつもりなのだろう。
ならば軽くあしらってなどいられない。少しばかり本気にならねばならないようだ。
「若き日の至りとしてこの日を胸に刻んでおくといいでしょう」
刺すような空気が辺りを包む。神柳の殺気であった。
普通の人間ならばそれを受けただけで尻尾を捲いて逃げていくに違いない。
しかし重田は違った。依然として鉄パイプを握りしめ神柳を睨み付けている。
神柳の殺気など何処吹く風といった様子だ。
(ただ者ではない、ようですね)
素直な感想を神柳は心の中で呟いた。
自分のような異能者であれ、ここまでの者はなかなかいない。
神柳は素直に感心した。


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