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空の唄〜U
【ファンタジー その他小説】

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空の唄〜U、月下の妖精〜-1

「ごめんなさい。
    ――ありがとう」

決して温もりを分かち合えない唇で紡がれた、たった二つの言霊。
切なく、儚く俺の心に突き刺さるのに、冷たいガラス越しに揺らめく業火の中で見る君の笑顔は全てを魅了させるほどに綺麗で。それは、いつもどこか哀しみを感じさせる君が初めて見せる極上の笑みだったのだろうか。

二人の肌を伝って零れ落ちる涙は空に溶け込んでいった。

だから俺は誓うよ。
君が恋い焦がれたこの空をいつまでも守り続けるから……

◆ ◆ ◆

哀しき旋律の舞いが空気を包む。嵐を見送った朝焼けの海のようにただ静かに、水面をほとんど揺らさず。けれど、この響きは胸の奥をどうしようもなく潤ませる。
それは作曲者の意図によるものなのか、弾き手の技量によるものなのか。一時には計り難い。

音を奏でしその者はただ一人暗闇の中。目前に浮かぶ純白だけが唯一の光であり、それ以外は何もない。その鍵盤上を舞い踊る指はそれと見間違いそうなほどの白亜を纏っているが、腰まで伸びるしなやかな髪はより一層強い煌めきを持つ。緩やかな波をきらきらと光らせるそれこそ、旋律に酷似しているのだった。

まるで月下の妖精。
神々しい白銀を持ち合わせるその姿には、あまりにも似合いすぎる言葉であった。

しかし唐突に、止めどない旋律は終節を待たずして消え去る。それと同時に暗闇の世界に真っ直ぐな光の道筋が招き入れられる。その道筋までもが白銀に染まっていた。
昼の太陽よりも柔らかく、遠慮がちに地を照らすその光。どうやら今夜は素晴らしい月夜らしい。

「行くんだな」

「――うん。もうすぐ『龍魔の刻』が来る。そうすれば彼らも動き出すだろうから、きっと…」

息を潜めた暗闇にさえ溶け込んでしまいそうなほど静かな声で、月下の妖精のごとき少女は言った。白銀の髪が、くるりと方向転換をした体に合わせて踊る。
真っ直ぐに光を受け止める瞳は口調とは反対に、強い意志を兼ね備えた蒼に染まっていた。そのまなざしを一手に受ける者は逆光に霞まされた顔から小さなため息を吹かせる。諦めや、呆れ以上のものをそこには感じた。

「どうせ反対したって行くつもりだろ?」

「………」

沈黙は即ち図星だと、この者は考えたのだろう。先程よりも大きく息を吐き出した後、右手を左胸に当てて膝をおり、頭を垂れる。まさに騎士が主君にするそれだった。
途端そこには全てを包みこむような暖かな風が起こり、一瞬押し広がってまた縮まっていった。

騎士の格好をしたその者はその風の気配が消えると共に静かに顔を上げた。ただ目の前には、自分の影を作り出す光の道筋のかけらが純白のピアノを包み込んでいるだけであった。


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