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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*16*-3

あぁ、そうか。


明樹ちゃんを大事に思っていたから…。あたしよりも何十倍も辛かったからこそ、矢上は自分じゃなく明樹ちゃんの思いを優先出来たのか…。
矢上は本当に心が強い人なんだ。
「大丈夫」
あたしは声を出すことがこんなに難しいことだなんて思わなかった。だけど、伝えなきゃ。
「矢上の思いはきっと伝わってる。それにもう、みんな怒ってないよ。むしろ矢上を待ってるから」
矢上がゆっくり笑顔になっていく。
「ありがと」
あたしはもう一度、自分の中でその言葉を噛み締めた。そして「うん」と頷く。
「音羽ちゃん」
不意に矢上があたしの名前を呼び、自分の隣をポンポン叩いている。
「ん?」
「こっち来てくんない?」
「…え」
矢上は楽しそうにポンポンし続ける。
あたしは徐々に顔が赤くなってくるのが自分でも分かった。
「むっ、無理」
「来てってばぁ」
更に楽しそうな矢上。あたしは観念して、人一人分空けたところに膝を抱えて座った。恥ずかしくて、矢上の方を見れない。
「離れてますけど…」
「これ以上は本当無理」
あたしは膝に顔を埋めた。
矢上の隣にいけないのは恥ずかしいというのもあるけれど、何となくこの距離を縮めてはいけないような気がした。
矢上は、最も大切にしている明樹ちゃんを失ってボロボロなのに、あたしなんかが隣にいていいのか。
そんな思いが渦巻いていて、あたしからこの距離を埋めることは出来なかった。
「来ないならいいよ」
そう、行けない。あたしはまだ矢上に近付けない。
あたしはギュッと固く目を閉じた。
「オレが行くから」
あたしは反射的に目を明けた。
右腕に人の感触がある。


『お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします』


明樹ちゃんの声が聞こえた気がした。
あたしは、明樹ちゃんと約束したのに。


ねぇ明樹ちゃん。
あたし、矢上の隣にいたいって思っちゃったんだけど、いいかな。


矢上がぴったりとくっついている。見なくても分かる。触れ合っている右腕が熱いもん。
矢上は気付いてないかもしれないけど、あたしは矢上がさっきから小刻みに震えているのを知っている。
いろいろ、我慢していることがあるんだろう。
あたしなんか想像もつかないくらい辛かったんだろう。
だけど、あたしはこのまま顔を上げないで黙って傍にいるだけにする。気付かないフリをする。何も聞いたりしない。
アンタが同情されたくないってこと知ってるから、いつか矢上から話してくれるまで待つよ。


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