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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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高崎龍之介の悩み 〜初恋〜-3

「すっごく気持ち良かった……」
頬を紅潮させた美弥は、そう言ってから龍之介に抱き着いて来る。
「そりゃあ……前回は痛いだけだったろうから今日は気持ち良くなって欲しいって、頑張ったし」
龍之介は美弥を抱き締め、穏やかな後戯を始めた。
「ん……」
ややくすぐったい龍之介の手を、美弥は微笑んで受け入れる。
――言葉のいらない静かで和やかな時間が、しばし流れた。
「ん?」
しばらくしてそれを壊すように、龍之介の携帯がメロディを流し始める。
「……誰?」
「あ、兄さんからだ……珍しいな」
龍之介は手を伸ばして携帯を取ると通話ボタンを押し、電話に出た。
「兄さん?」
『よ、龍之介』
「こんな時に何の用さ?」
『なんだ、まだヤリ終わってなかったのか?』
「兄さっ……!」
さすがは兄。どうやら行動パターンを見抜いていたようだ。
『いや、今日は雨だから客足が鈍くてさ。昼メシおごってやるから、街まで出てこいよ』
「……聞いてみるよ」
携帯の送話器を塞ぎ、龍之介は美弥に尋ねる。
「おごるから一緒に昼ご飯はどうかって聞かれてるんだけど……街の方、行ける?」


ランチのメニューを手書きした黒板が目印の、仏国風の建物。
『ラ・フォンテーヌ』は、高校生が入るのにはだいぶ敷居の高いレストランだった。
龍之介に手を引かれ、美弥は店内へ入る。
「いらっしゃいま……何だ、龍之介君か」
ウェイティング・バーにいた制服姿の男性が、笑みをこぼしながら近付いて来た。
「お久しぶりです、宮子さん」
「こちらは彼女?」
「はい。ついさっき、兄からランチおごるから来いって言われまして。遠慮なく食べに来ました」
「ランチより、新作ケーキの試食だろぉ?」
宮子と呼ばれた男性は、にやにやしている。
「ま、龍之介君が彼女連れて来たんだから、腕振るうように店長へ言っとくよ。飲み物は……適当に見繕っていいな?んじゃ、客もいないし好きな席に座ってくれや」
「はい」
龍之介は庭の見渡せる席を選び、美弥のために椅子を引いた。
「……顔馴染みなのね」
美弥は引いてもらった椅子に座り、向かいの席に腰掛けた龍之介へそう言う。
「ん……まあ、何かあるとここへ呼び出されるからさ」
「その通り」
真っ白なシェフコート姿の青年が、客席を横切りながらやって来た。
「初めまして。僕は龍之介の兄で、高崎竜彦。よろしく」
あと十年もすれば龍之介がこうなると思われるくらい、そっくりなお兄さんである。
「あ……は、初めまして。伊藤美弥、です」
高崎竜彦の差し出した右手を、美弥は握った。
「んじゃ、まずはコースのランチな。弟に付き合えるくらいだから美弥ちゃん、甘いのは好きだろ?」
「え?ええ、まあ……」
「良かったら来月から出す予定の新作ケーキ、味見してくれないかな?」
「え、いいんですか!?」
竜彦は、ニヤリと笑う。
「いいねぇ、その反応。季節柄色々あるから、たくさん味見してって」


様々なケーキを味見したが、美弥が一番気に入ったのは季節のフルーツのタルトだった。
あんまり美弥が気に入ったので、竜彦が帰り際にをタルトを一ホール、ラッピングしてプレゼントしてくれた程である。
「う〜ん、いいお休みだった!」
レストランを出た二人は、雨上がりの道を歩き始めた。
「楽しんでくれて嬉しいよ」
龍之介が微笑む。
「あ、もし良かったらの話だけど……もう少ししたら、冬の新作とクリスマスケーキの試食もあるんだ。一緒に、食べない?」
「え、いいの?行く行く!」
はしゃいだ声を出してから、美弥は表情を曇らせた。
「あ〜、でもなあ……」
「でも、何?」
美弥は自分のお腹をさする。
「あんまり食べると、ここが……」
龍之介はくすくす笑い、美弥の耳元へ囁いた。
「それじゃあ今度の試食までの間に、一緒に『運動』してダイエットしよう」
美弥は耳まで赤くなる。
「う、運動って……」
「主に腹筋や腕立て伏せ、スクワットや懸垂もするかな……って、赤くなってどおしたのぉ?」
にやにや笑いながら、龍之介は美弥の顔を覗き込んだ。
「……知らないっ」
秘密めかして『一緒に運動』と言われ、ついお肌の触れ合いの方を想像していた美弥は、そっぽを向いて歩き出す。


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