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君の名前
【純愛 恋愛小説】

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聖夜に降る雪-2

                □□□□□

 今、時計は夜の十時を回っています。もう眠いけれど、いっこうに手紙が進みません。
 いざ書き出すとどれから書き出せばいいのか悩むよ。困った。これを読んでいるあなたはもっと悩んでいるでしょうね。とりあえずゆっくり書こうかな。なるべくさりげなく伝えたいから。テツと付き合い始めて、もうどれくらい時間が経つだろう。ふと考えてみました。うーん。長いね。つらかった事もあるけれど、今になって考えたらそれさえ幸せをかみ締めるための媚薬だったように思えます。何がつらかったって?
 そうだな、たくさんあるよ。あなたがへそを曲げた日、熱を出した日、あなたが友達と飲みに行ってしまった日、そんなときは寂しかったな。ああ、私がへそを曲げたときも。自分のせいなのに寂しかった。お互いとってもやきもち焼きな気がします。
最近は特に。あ。それは私か失礼。
 とにかく、本当にいろんなことがあったと思います。
 初めてのキス。覚えてる?私の部屋で。私は覚えてるよ。なんか、緊張とかよりも空気が丸みを帯びていた気がしたよ。うん。そんな気がした。大変だったのは、キスした後だよね。なんかさ、目もあわせるのも恥かしいし、急に他の話題するのもおかしいし、私なんてテツより年上なのに変にドキドキしちゃってね。恥かしかった。懐かしい感じのする空気というか、でもやっぱり恥かしかったかな。
 テツはどうだった?顔、真っ赤だったから恥かしかったでしょう?
 でもね、本当の本当に私は幸せだよ。
 テツがいれば、私はとても幸せ。

                □□□□□

「彼女は、あなたを不幸にするでしょう」

ふと聞き覚えのある言葉が耳元をかすめた。
なんだったかな、と考えると同時に思い出した。そうだ。あの時の占い師の予言だ。暗幕で囲まれた薄暗い部屋、白いテーブルを挟んで向かい側に座る彼女は、まるで苦いものでも噛むように顔をしかめながら確かにそう言ったのだった。
その表情があまりに印象的だったせいで、僕は三年近くたつ今でもその時の状況を鮮明に思い出すことが出来る。当時の僕は、神経がどうしようもないくらいにまいっていた。あれこれ考えなくていいことまで考え頭を悩ませ、そんな自分の神経質さに苛立ち、さらにその神経質な自分に対して神経質になるという、まさに終わりのない最悪の悪循環を繰り返していた僕の精神の器は、どっと押し寄せる現実の波に耐え切れず、ついに決壊したのだった。
そういう人が世の中に大勢いることは知っていたが、まさか僕がその一人になるなんて思ってもみなかったことだ。だからと言って、それが占いの館へ行く直接の理由にはならないかもしれない。
ただ、何かにすがりたい、という気持ちはきっとあったのだと思う。
気を紛らわせる程度でいい。
僕には、それがたまたま占いだった。それだけの話だ。僕を占ってくれた占い師の名前は覚えていないが、結構年配の女性だったと記憶している。黒光りするマントを羽織った彼女は、テーブルの上にタロットカードを広げ、そして一枚一枚めくる度に、僕の未来を予言した。
「あなたは、近い将来、一人の女性と出会うでしょう」
と占い師はかすれた言った。四角く切り取られた部屋には、耳をすませば聴こえてくるという程度に低く音楽が流れている。いかにも、という感じの癒し系ミュージックだ。
「でも、この人はいけないわ」
「いけない?」
僕は眉をひそめた。
彼女は最後の一枚を選び取り、それを目にしたとたんがっくりと肩を落として言った。
「彼女は、あなたを不幸にするでしょう」


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