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全てを超越
【コメディ 恋愛小説】

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全てを超越『3』-1

「迎えに来たわ。帰りましょう」
コンマ一秒狂い無く講義が終わったと同時に、朝霧は教室のドアを開け放ってそう言い放った。
その瞬間に、教室にいた生徒の約五割(全員、男)に達する数×2の血走った目が俺を見る。
正直、ため息が止まらなくなる現状だ。

あれから土日を挟んで3日経った。
先週末に駐輪場で、朝霧の言葉のバズーカを真っ正面からまともに受けてしまった俺は、恥ずかしさのあまりに言葉と判断に窮した。
あまりにもストレートで飾り気なんざ一切ない言葉は俺にとっては大き過ぎ、そしてもったいな過ぎたし、何より今まで告白された事のないチェリーな俺がいきなりこんな告白されて、まとも返事が出来るか!!(逆ギレ)
まぁ、一応返事っぽい事は言ったけども。
……と、こんな状態の俺に、無意識なのかわざとなのか……朝霧は俺にさっきのような追い討ちをかけてくる。
このままでは、身と精神が持たねぇ。
そんな事を考えてると、鞄と何かが入ったサックを肩にかけた朝霧が話し出した。
「最近、君に熱い視線を送る男性をよく見るわ」
「まぁ、ある意味熱い、かな……」
その熱の発生源は主に憎悪や妬みだと思われますけどね。
「まさか、君を?……そうね。君って、かわいいもの。同性からも好かれるのね」
な、なにを言い出すんだ、こいつは……。
「んな訳あるか、気色悪い!!大体、俺のどこがかわいいんだ!?」
「そうね。……小さい所かしら」
グサッ!!
朝霧は見事にトラウマのど真ん中を撃ち抜いた。
「…ちっさい言うな!」
「……ごめんなさい。気にしてたのね」
う、そんなに悲しそうな瞳すんなよ。 なんか、こっちが悪い事……。
「今度からはこぢんまりしてるって言うわ」
前言撤回!!
やっぱり悪いのはこいつだ!
「と、とにかく奴らが俺に向けてるのは憎悪だ。憎悪!」
「え、君は彼らに恨まれるような事をしたの?」
こいつ、本気でわかってないのか……?
なんか、これ以上説明しても、色々とややこしくなるだけかもしれん。
「まぁ、それはそこらに置いといて」
「置いとくのね」
頷きながら、朝霧はついて来る。
そう、置いとくの。これ以上ややこしくなったらかなわん。
「一緒に帰ろう、とか言ってもだな、お前って確かバス通学だったよな……?」
「…………」
あの、なんで胸の前で手を組んで、天を仰いでんの?
神様に感謝してる様に見える。
なんか俺、変な事言ったかしら?
「あのぉ、朝霧さん?」
「……あ、ごめんなさい。あまりの歓喜と感動に酔ってしまったわ」
感動って……。
バス通学してるよなって、言っただけじゃん。
「な、何でッスか?」
「だって、私という、今まで最低限の会話しかしてこなかった可愛げのない女の事を知ってもらっていたなんて……。これを喜ばずに、何で喜びましょうか」
なんか、スッゲー嬉しそうですね。朝霧さん。
「んな、大袈裟な」
「いいえ、これはとても喜ばしい事なの。世間一般で言うなら、脈あり、という事かしら」
「いや、たまたま知ってただけだ」
そう、たまたまだ。たまたま。
ただでさえ、こいつは人の目を引く。なのに、自分が人よりも注目されるって、自覚が一切ない。
危なっかしいたらありゃしない。
「運命としか思えな「偶然だろ」
歓喜に満ちた朝霧の言葉を言い切る前に、にべもなく撃墜する。
無表情のまま俺の方を向く。視線がちょっと痛い。
「な…何にせよ、こーやって一緒に帰ってるだろ?」
苦し紛れにそう言った。
「……そうね。それだけでも、私は凄く幸せだわ」
幸せって……。俺には物凄く大袈裟に聞こえるが、こいつは本気で言ってるんだろうな。表情からは全然読みとれないけど、雰囲気は嬉しそうな感じになった。
もったいない。俺なんかより、良い奴いるだろうに。


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