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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第8話・開幕、是即開戦なり》-7

───シュンッ…バンッ!!

空を斬り、疾風と朧の間を裂き、舞台を叩き付ける木刀。

「何を…」

いつの間にか現れた楓が木刀を握ったまま、ゆらりと動いた。

「しておるのだあ!!」
「うぉわっ!?」

さらに真一文字に木刀を振るう。疾風は驚き、朧はくすくす笑いながら左右に飛び退いた。

「くすっ♪それくらいいい演技でしたということですよ♪では、今後とも良いお付き合いをよろしくお願いしますね、疾風さん♪」

朧は逃げるように帰っていった。
残された疾風と楓。

「あ、あの…」
「………」

楓は無言で木刀を腰に佩いた。そして、疾風に向き合う。

「ご…」

自分は悪くないはずなのに…
そう思いながらも、居心地の悪さから手を付いて謝りたくなった疾風。
だが、楓は疾風を責めるわけでもなく、怒るわけでもなく、ただ朧と同じように疾風を抱き締めた。
予測外。疾風にとってはあまりに予測外。ソフトバンク以上に予測外の動き。

「か、楓!?」
「…こ、これは…け、決して朧殿が羨ましいとか…そういうことではないぞ…」

楓は慌てながらも離れようとはしない。

「ただ…お疲れ様と言いたくてだな…」
「………」
「…分かっておる。朧殿得意の冗談なのだろう…私は誓いを破ったとは思っておらぬ…」

ここでようやく楓が疾風から離れた。顔は赤く、ほのかに上気している。

「くよくよするな。皆は失敗したとは思っておらぬぞ。良い劇だった♪」
「楓…」
「な、なんだ!?」

疾風は楓の瞳を覗き込んだ。真っ直ぐな視線に楓の顔の赤さがさらに3割増。

「ありがとう」
「…えっ?」
「楓が昨日、屋上で言った言葉がなかったら俺はきっと何にもできなかったと思う…」

楓から視線を外し、うなだれるようにした疾風が呟いた。

「俺…どこかで過信してたのかな…自分が失敗するはずないって…」
「何を言っておる。お前らしくもない」

弱々しく呟いた疾風に楓は笑顔と共に言った。

「さあ、帰るぞ!とにかく、劇は終わったのだ。何時までもくよくよと…男がそんな女々しくてどうするのだ」
「…そうだな。楓、ありがとう」

最後にもう一度だけ楓に礼を言った。

「どういたしましてだ♪」

ようやくその顔に笑みを取り戻した疾風は会場出口へと向かった。


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