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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第8話・開幕、是即開戦なり》-6

◆◇◆◇◆◇◆◇

「…すみません…」

客席に聞こえないよう朧に謝った。

(くそっ…)

疾風は客席に目を向けた。何も喋らない役者に観客は不審な視線を投げ掛けている。

(…どうしたら…)

悩む疾風に観客の視線が突き刺さる。
だが、ただ一つ…
たった一つだけ、疾風に向ける視線に違うものがあった。

(楓…)

他がキョロキョロと視線を動かしているのに対し、楓だけは弱気な疾風を叱咤し、励ますように真っ直ぐ疾風を見つめていた。

『失敗を恐れるな。それに失敗したときは台本ではなく、疾風、お前の好きなようにやれば良い』
『臨機応変に対応することが大切なのではないか?』

(…そうだよな)

疾風は朧から離れた。
少しずつ喉を絞り、前の骸丸の役者の声に似せる。

「姫…」

よし…声はほぼクリア。多分バレないだろう。

「…私は禁忌と知りながらも…」

朧が話すはずだった台詞を元に新たな台詞を組み立てていく。

「一目お会いした時より、貴女様をお慕い申し上げておりました」

疾風は朧の肩を掴みながら言った。

「…禁忌などではない」

朧も疾風の意思を汲み取り、新たな台詞を紡いだ。

「そなたはいつも私の側にいてくれた。気付いたときには、私はそなたを他の者と同じように見る事はできなくなっていた…」

そこまで言うと今度は朧の方から疾風を抱き締めた。

「愛しておる…そなたを愛しておる…」

そして、舞台は暗転。
疾風の出番はここで終了。

何とか乗り切った。
舞台袖の隅で霞に怒られながら、そう思っていた。
その後は滞りなく進み、観客の拍手も長く響いていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「すいませんでした…」

全ての片付けが終わり、閑散とした舞台上。
その誰もいなくなった舞台上で疾風が朧に頭を下げた。

「いえ、失敗はよくあることですから、気になさらずに。私もよくしちゃいますから♪」
「……本当にすいません…勝手に台詞も作ってしまって…」
「カバーする為には当然のことですよ♪それに疾風さんの台詞、良かったです♪真剣さが伝わってきましたし、私も思わずキュン…と♪」

ふわりとした笑顔。

「先輩…」
「あんな風に言われたら…私も本気になりそうです…♪」

蠱惑的に微笑むと朧は疾風の首へと自分の腕を回した。

「えっ…せ、先輩…ちょっと…」
「ふふっ♪私…疾風さんのこと結構好きですよ♪なんなら、私達…付き合っちゃいます?」

耳元で朧はそう囁いた。
妖しく、艶やかに…
魅力と魅惑と魅了を込めて…


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