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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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伊藤美弥の悩み 〜受難〜-8

翌日。
美弥が家の外に出ると、龍之介がゆるゆると歩いて来る所だった。
「おはよう」
門扉の外に出て来た美弥の姿を認め、龍之介は挨拶してくる。
「お、おは、おはよう……ござい、ます」
まともに龍之介の顔が見れなくて、美弥は俯いた。
ああ恥ずかしや。
「夕べは眠れた?」
そんな美弥の心情に気付かず、龍之介はそう尋ねて来る。
「うん、まあ……」
美弥は、曖昧に答えておいた。
自慰行為に耽って体力を消耗したので、後始末をしてから寝具に体を横たえると、引き込まれるように眠りについた。
だがまさか、そんな事を喋る訳にもいくまい。
「龍之介は?」
「僕?いつでも快眠」
「それは悩みがないって事?」
「失礼な!これでもいちおう思春期の悩みが色々と……」
――ふざけ合いながらのお喋りが、楽しい。
今まで龍之介とはたいして親しくなかったが、それが非常にもったいない気がした。


「え〜っ!うっそでしょ!?」
友達の声に、美弥は耳を塞いだ。
「高崎龍之介って言ったら、あんた……」
――学校の昼休み。
美弥は友達と、屋上でランチタイムを楽しんでいた。
「校内じゃ、割と人気があるじゃない。身長がもう少し伸びれば、ぶっちぎりで一位の胤真様とは無理だけど……二位の古川先輩といい勝負とか聞いてるわよ」
「草薙先輩、ねぇ……」
美弥は思わず呟く。
下手なアイドルなど百メートル先からでも霞ませてしまいそうなパーフェクトな容姿を持つ少年は、校内にいるほぼ全ての女性から熱い視線を浴びていた。
だが当人は最近付き合い始めた一つ年下の再従妹を溺愛し、他の女には目もくれない。
その一途さがまた、当人の人気に拍車をかけていた。
『私もあんな風に愛されたい!!』という女性が多いのだろう。
「そんな男と一ヶ月限定のお付き合いって……」
従兄のマッドサイエンティストぶりを知る数少ない人間の一人である友達は、美弥のかいつまんだ説明にあんぐりと口を開けている。
「それにあいつ、女については物凄く堅いって話よ。入学してから五人くらいの女の子に告白されてるけど、いずれも『それは幻想だ。本当の僕を知りもしないのに、恋をしたなんて勘違いはするべきではない』なんて言ってフッてるらしいわよ」
「…………イヤに詳しいのね」
友達は、ご飯を喉に詰まらせた。
「ま、ね。あたし、五分の一だから」
美弥は、飲み物を吹き出す。
「はぁ!?」
「あいつにね……告白したの。でも、そう言って断られた」
寝耳に水の話に、美弥は驚愕した。
「そんなの、全然聞いてない……」
友達は、苦笑する。
「あんた、色恋沙汰の相談には役立たないもの」
「……傷付いて拗ねるわよ」
「ごめん。でも実際のとこ、あんたそういうのは鈍いじゃない?恋愛とか、噂とかさ」
図星なので、美弥は押し黙った。
「ね……それじゃあ私が龍之介と付き合ってるふりしても、怒らない?」
「別にぃ〜。も、すっぱり諦めついてるし」
告白する勇気を出したのに、友達にとって龍之介の存在はその程度のものだったらしい。
「あ……美弥。彼氏よ」
友達の指す方向に、コンビニの袋をぶら下げた龍之介がいた。
座れる場所を探しているようで、きょろきょろと視線を動かしている。
「あ……一緒、いい?」
「うん」
「ありがと。龍之介!」
美弥が声をかけると、美弥に気が付いた龍之介はこちらへやって来た。
「一緒にお昼食べよ」
「あ、でも……」
過去にフッた女の子が偽彼女の隣にいる訳だから、龍之介はためらう。
「あたしは気にしないわ。どうぞ」
無下に断るのもためらわれたらしく、龍之介は礼を言って美弥の隣へ腰を降ろした。
コンビニ袋から取り出されたのは野菜サンドイッチと菓子パンが二つ、それらを胃へ流し込むための紙パックの牛乳が一つ。
「……いつもそんなお昼なの?」
美弥の言葉に、龍之介は頷く。
「いや、一人暮らししてるんだけど……自分の弁当詰めるのが、面倒だから」
「やだ、それじゃあ栄養偏るわよ」
「じゃあ美弥。あんたが作って上げれば良いじゃない。彼女なんだから、手作り弁当くらいは差し入れたって構わないでしょ?」
友達の言葉に、二人は動きを止めた。
「そういう仲良しアピールしとけば寄り付かなくなる男も増えると思うし、守護神して貰うお礼になると思うけど」
「!」
美弥は、龍之介を見る。
「差し入れ……していい?」
意外な成り行きに龍之介は口をぱくぱくさせ……諦めたように頷いた。


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