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「ごみすて」
【調教 官能小説】

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「ごみすて」-2

「島田さん、他にも不燃のゴミは入ってないの?」
「え?」
 思い出した。
 ゴミ袋の中には、確かに他にも、不燃のものがある。
 恋人と過ごした週末。三回、彼と愛し合った。
「あの…ええと」
「まだあるの? ほんと、モラルもなにも、ありゃしないわ」と女が目を吊り上げる。
「あと二つくらい…。同じのが」
「同じの? 何のことかな」
 まるで千佳が言うことを予想していたように、粘りつく男の台詞。
「その、それが…」
 千佳が目で、女の持つコンドームを示す。
「一つじゃないの、三つ?」
 女があきれた、という演技で千佳を見る。
「最近の若い娘さんは何を考えてるのかしら。本当にもう」
 自分が漁っていたゴミ袋を、男は千佳の前に置く。
「あと二つだね。自分で探しなさい」
 ゴミ袋の口を開く。生ゴミやチラシやティッシュペーパーが詰まっていた。
「む、無理…です…」
 千佳には潔癖症気味のところがあった。ゴミ袋にも素手では触れない。
 ためらう千佳の前に、女が踏み出た。
 ゴム手袋をした指先を真っ直ぐに突きつける。
「いいのよ、探さなくても。私たちが探すから。写真を撮って、町内の掲示板に貼りますから。大家さんに連絡先を聞いて、この違反の不燃ゴミを、あなたの実家に送りつけますからっ」
 千佳は青ざめた。話し方が普通ではない。この女なら本当にやりかねない。
「…探します」
 千佳は腰をかがめ、ゴミ袋を広げた。腐った、生々しい生活の臭いが鼻をつく。
 監視委員の二人は腕を組み、千佳を見ている。
 一つ目はすぐに見つかった。ティッシュペーパーで包まれていた。
「…ありました」
 それを受け取った女は満足そうにうなずいた。
「あら、すぐに見付けたわね」
 目の前でしげしげと見詰める。中には、まだゼリーのような液体が残っている。
「それにしても島田さんでしたっけ? 真面目そうな顔して、ずいぶん遊んでるのね。臭いもきついし。ツンとするわ」
 わざとらしく顔をしかめた。
「やめてください、そんな言い方…」
「ほら、もう一つあるんでしょう。こんなに体臭がきついなら、鼻だけで捜せそうね。犬みたいに」
「いやぁ、若い人は凄いな。三回か。見習いたいもんだ」
 あっはっは、と男が声高に笑う。
「同じ相手とは限らないわよ。三人の男を相手したんじゃないの? こういう子に限って、陰でなにしてるか、分かったもんじゃないんだから」
 千佳の顔の前で、そのゴムの袋を振る。ねとねとした粘液が糸を引いている。
 反論しない方がいい、と千佳は思った。刺激しないのが手だ。ただ首を横に振るだけ。
 もう一度かがんだ。今はこの場から逃げ出したい。
「早くしなさいよ!」
 腰を伸ばしていた千佳の膝を、後ろから女が蹴飛ばした。
「ひゃっ!」
 バランスを崩して千佳は膝を着く。膝に痛みが走った。
 女の目に、狂気があった。小さな動物をいじめ、いたぶる時の子供の顔。
 蹴られた痛みより、この女のことが怖かった。そのふるまいを平然と見ている男も怖かった。
「ちゃんと探しなさいよ! ちゃんと。自分で捨てたものなんでしょう」
「…はい」
「まったく、なってないわね。どんな教育を受けてきたんだか」
 男が、膝を着いた千佳の前で、またゴミ袋を広げた。
 千佳は情けない表情で、自分の出したゴミ袋を漁った。その臭気で、喉に酸味が上がってくる。
 もう一つはゴミ袋の底にあった。メイク用のコットンと一緒に、コンビニの袋に入っていた。コンドームだけを引っ張り出すと、中からどろりと恋人の古い精液が垂れ、千佳の指を汚した。
 好きな恋人の身体の一部。二人でいる時は、その液体の粘りつく感触も、青草のような匂いも、嫌いではなかった。それを放出する時の、恋人のうっとりした、切なげな表情も。
 でも今、疲れきったコンドームの中でべったりと揺れる精液は、汚物にしか見えない。獣の臭いがした。
「これで、不燃のゴミは、全部です…」
 消えそうな声。千佳の顔は真っ青だった。
 ふん、と鼻を鳴らして、ゴム手袋をした女は三つ目のコンドームを眺めた。縮れた毛がこびりついていた。
「この毛だけは燃えるゴミね。ちゃんと剥がして捨てなさい」
 女の目に浮かぶ狂気は、さらに輝きを増している。反抗もできなかった。
 千佳は震える指先を伸ばす。女が指先からだらんと垂らしたものから、黒々とした毛をつまんで引っ張る。毛はゴムに貼りついていて、コンドーム全体が揺れるだけだった。もう片手で押さえようとすると、女が素早く引っ込めた。
「こんなもの、いつまで私に持たせるつもりなの?」
 コンドームを鼻先に押しつける。
「なんで取らないのよ。私を馬鹿にしてるの?」
 千佳はかぶりを振る。喉を絞るようにしないと声が出ない。
「くっついて…」
 不思議そうな顔で千佳を見ると、残酷な笑みを浮かべた。


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