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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み8 〜文化祭〜-8

「お、終わった……!」
 ステージの端に退場すると、美弥は大きくため息をついた。
「お疲れ様」
 準備万端の瀬里奈が、そうねぎらってくれる。
「ん。瀬里奈も、頑張って!」
「ええ」
 曲が流れ始めると、瀬里奈は一呼吸置いてからステージへ出ていった。
「お疲れ!予想以上にいい出来だったわよ!」
 はしゃいだ様子で、楓が声をかけてくる。
「そ、そう?緊張しちゃって……」
 龍之介が見守ってくれているという安心感からそこそこに歩けた気はするが、ドレスを綺麗に見せる事ができたかどうかは……正直な話、自信がない。
「うん。目立ちたくないって渋ってた割には、いい出来!」
 瀬里奈から受けた特訓が、ちゃんと生きたようだ。
 華やかな衣装に豪奢なメイク、それらにふさわしい立ち居振る舞いを、付け焼き刃ながらも瀬里奈から教わっていたのである。
「んじゃ、これで出番は終わりね」
「ええ。ドレスは、着替えたら更衣室のマネキンに着せといて。後で家庭科室に飾るから」
「ん。あ〜、ようやく化粧が落とせる!」
 
 
 クレンジングオイルで化粧を落としてもまだ肌から落ち切っていないような気がするため、美弥はシートを使って顔を擦っていた。
 やってみると、やはり落ちる。
 トイレ前の手洗い場で化粧を落としていた美弥は、鏡に龍之介の姿が写ったのに気付いた。
「や」
 鏡向こうの恋人に挨拶すると、龍之介は目を微笑ませる。
「何か化粧が落ち切らなくって……」
 シートで睫毛を拭うと、マスカラがくっきりとくっついてきた。
「ほらね」
 それを龍之介に見せてから恥ずかしそうにそう言うと、美弥は肩をすくめる。
「やっぱり、落とし方に慣れないと下手くそなのかなぁ?」
「さぁ……」
 生まれてこの方化粧なんぞした事のない龍之介は、コメントに困った。
 龍之介が見守る中、美弥はとりあえず化粧を落とし終える。
「んじゃ、出し物見に行こうか?」
 ファッションショーの準備で比較的早い時間から拘束されていた美弥へ、龍之介は尋ねた。
「うん」
 美弥は微笑むと、龍之介に向かって片手を差し出す。
 微笑み返してその手を軽く握ると、龍之介は美弥の歩調に合わせてゆっくり歩き始めた。
「どうする?まずは教室順番に巡って……」
 
 ゴガッ!!
 
 背後から物凄い音が聞こえたため、龍之介は言葉を切って振り向く。
「……うわぉ」
 驚きを表す呟きへ賛同するように、美弥が喉を鳴らした。
 知らない顔だからたぶん、下級生だろう。
 なかなか個性的な格好をした少年が三人、廊下でくんずほぐれつ取っ組み合っていた。
 要するに、喧嘩しているのである。
「一体、何があったんだか……?」
 前後の事情が分からない自分達が首を突っ込むのは控えていた方がいいだろうと判断し、龍之介は反対の方向へ足を向けた。
「とりあえず、保健室行こう」
 龍之介の言葉に、美弥は目を白黒させる。
「な、何で?」
 言われた龍之介は、肩をすくめた。
「どんな事情で暴れてるのかは知らないけど、喧嘩が終わったら手当が必要だろ?だから、路子さんが近くにいた方がいいと思う」
「あぁ……」
 納得した美弥は、龍之介に従う。


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