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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*8*-4

―プリクラ…!?


それは電池パックカバーの裏に一枚、隠されるように貼られていた。
今よりも髪の短い矢上が学ランを着て屈託の無い笑顔を浮かべている。その横には、楽しそうにピースサインをしている知らない女の子。
胸の辺りまで伸びた黒髪はストレートで美しく、真ん中で分けた前髪がとても清楚なイメージを与えた。
髪の毛と同じ色の大きな黒い瞳はキラキラと輝いて、白い肌にとても良く映えている。
すごく綺麗な女の子。その上、なんとなくだけど、とても気持ちの良い子なんだとも思った。
「矢上、これ…」
あたしは手に持っている二つの部品を矢上に差し出す。
「あぁ、ありがと」
それを受け取るとすぐケータイにはめて、もう一度ケータイを撫でた。
「うん、何でもないな」
矢上はケータイをポケットにしまうと、またビニール袋を持ち上げた。
だけどあたしは、なかなか動けずにいた。
「音羽ちゃん?どうしたの?」
矢上は持ち上げた袋をまた置いて、あたしを心配そうに覗き込む。
「あの…そのプリクラって…」
あたしはケータイの入っているポケットを顎で指した。
「ん?…これ?」
矢上は大切そうに、優しく、ズボンの上からポンポンとケータイを叩いて
「それが、オレの大事な子」
と、すごくいい顔で笑った。
「その子が…」
あたしの声は震えていた。
体の中が締め付けられる。空気が重くのしかかってくる。
心臓がギュウギュウ痛い。鼻の奥がつんと痛くなり、目頭が熱くなった。
だけど、あたしはそれを堪える。
「そうなんだ」
呟いてから深く深呼吸をすると、ビニール袋の片方を掴んだ。
「帰ろう!みんな待ってるよ?」
果たして上手く笑えていただろうか。
矢上は頷くともう片方の持ち手を掴み、何事もなかったかのようにあたしたちはまた歩き出した。
ふと『やっぱりあたしは矢上の心の中には入れない』と思った。
まさに今の状態じゃないか。
一見繋がっているように見えるあたしたちだが、実際は二人の間にビニール袋がある。
それに比べ、ケータイは矢上の制服のポケットの中。それに貼られているプリクラ。
ホラね。
距離が違うんだ。
矢上の心の中に入っていけるのは、きっとプリクラの彼女だけなんだ…。


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