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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館の花達〜金美花・返り咲き〜-8

『………』
再び目覚めると、体は暖かさに包まれていた。
でも、額は冷たい。
自分はベットに寝ているようだ。 フカフカの感触でわかる。
ふと、自分の横を見てみた。
薄紫の黒髪と、優しい微笑み。
『………シャルナ………様?』
『あっ、アルネさん、気が付きましたか?』
ボンヤリとした視界が、元気な声でハッキリとした。
『シャナさん………』
ここは、私の部屋のようだ。
窓辺は綺麗に掃除されていた。
『どうしたのですかアルネさん、窓を開けっぱなしで寝て………
熱が出てますから、寝ていて下さい。』
ベットの横で、シャナが心配そうに私を見ていた。
よく見ると、額には氷袋が乗っていた。
『今………何時?』
『今はお昼の12時ですよ。 今フィルさんがお粥を作ってますから。』
シャナは濡らしたタオルで私の頬を拭いた。
『一度体も拭いておきたいですね………って、アルネさん!?』
私がベットから起き上がったため、シャナは驚いて声を上げた。
『………出掛けてくるわ。』
『な、何言ってるのですか!?
高熱なんですよ! 40度もあるのですから!』
だが、私はシャナの制止を振りきり服を着替えた。
早く確かめたかったのだ、来なかった訳ではなく、私を本当に愛しているのかをキシン本人に。
『馬車を………私の馬車を用意して。』
私専用の馬車、初めての出番かもしれない。
『アルネさん! お願いですから止めて下さい! そんな高熱で動いたら………』
『こんな熱………「下」………「熱」………』
自分の額に指をあてて唱えると、見る見るうちに顔の赤みや、体のダルさが抜けていった。
『………行くわ!』
いつになく固い決意をシャナも理解したのか、心配そうに見つめるも、止めることはやめたようだ。
『心配かけてごめんなさいね、シャナさん。
すぐに帰ってくるわ。』
馬車に乗り込み、私は紅館を出た。
御者に行き先を告げて、座席に座り込む。
体がダルい。 熱は下げたが体力まで回復した訳ではない。
それに魔法が切れればまた熱も上がってしまうのだから、時間が無い。
少し街から離れた郊外にキシンの屋敷はある。 もっとも、私はキシンが死んだ(と思った)時に取り壊したものとばかり思っていた。
思えば私はずっと紅館で生活していた。 奴隷市場と、紅様の付き添いと、数年に一度故郷の海に帰る以外紅館の外には出ていない。
キシンの家に実際に行くのは初めてだった。


しばらく馬車を走らせて、市街地を抜け田園地帯に変わってきた辺りに古い屋敷がひっそりと建っていた。
木造で塗装もしていないし、屋敷の裏に大きい森があるため目立たない屋敷だった。
これまた木造の門の前で馬車を止めて私一人で中に入って行く。
小さい庭の後で玄関が見えてきた、軽くノックして反応を待つとドアが開いて中から黒髪の女性が出て来た。
服装からして、メイドだろうか?
歳は20代後半辺りでおとなしい印象がある。
私がまず名前を名乗ろうと口を開いたのだが、女性が先に思い付いたように手を叩いて微笑んだ。
『もしや、ルーキデモデンナ様では?』
『は、はい、そうですけど………』
私が答えると女性は扉を開けて私を迎え入れてくれた。
『どうぞ、此方へ。』
妙にすんなりと入れた事に若干違和感を覚えたがとりあえず女性の案内に従い、部屋に入った。
『今、旦那様を呼んで参ります。』
女性は一礼してから扉を閉めた。
その部屋は随分と古い物ばかりが置かれていた。 ベットに机に。
もしかしたらここはキシンの部屋なのかもしれない。
『いきなり寝室にご案内って………』
そっと、ベットを撫でているとさっきまでの怒りがどこかに消えてしまった気がした。
キシンにも何か急用があったのかもしれないのだから………


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