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『好き』の言の葉(ことのは)争奪戦!
【同性愛♂ 官能小説】

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『好き』の言の葉(ことのは)争奪戦!-3

3  雅紀が、ボソリと呟く
「ヤバかったぜ…マジで襲うとこだったよ」
 俺は笑いながら答えた。
「な〜んだ、襲わないのかよ」
「え?…」
「アハハハ…ハ…あ?…え?…」
―パコーン……―
 雅紀の手から落ちた洗面器が、タイル張りの床に落ちる派手な音だけが二人の間に響き渡る。
 硬直した空気の中、唖然と見詰め合う二人…俺は勢いに任せてとんでもない事を口走ってしまった事に気付き、真っ赤になって弁明する。
「ち、ち、違うんだよ雅紀…その、そう言う意味じゃなくって…さ…あの…ぁ……」
 語尾が弱くなって、終には言葉を失ってしまった。その理由は、俺をジッと見据える雅紀の熱を帯びた視線に、心の奥底まで裸にされ、視姦されている様な気がして、抵抗力を失ってしまったから。
「だ、だから!…そんな目で見んな。俺、お前にそんな目で見られると、何も言えなくなるんだよ」
 熱い眼差しに闘争心を剥ぎ取られ、剥き出しになった心は、お湯の中から湧き出た雅紀の指が俺の前髪をそっと撫で上げる仕草にトクンと揺れた。
「ごめん朝月、やっぱ俺、お前の事好きだわ」
 そう言い切ってしまった雅紀…
 もともと隠し事の下手な男だ。正直、俺も全く彼の気持に気付かなかった訳ではない。
 だから…だからこそ、距離を置いてしまっていたのかもしれない…
 だってほら、こんな風に、面と向って『好き』なんて言われると、どう答えていいかわからない。
 男に告られる事は慣れっこで、その傾向と対策は、熟知している筈の俺が、自分でも不思議なくらい動揺し、同時に、驚くほど抑揚していた。
「ごめん…俺、一生言わないつもりだったんだ。なのに…ハハハ…とんだ勇み足を踏んじまったな」
 力なく笑う雅紀のうな垂れた姿は、とても小さく萎んで見えた。
 もう一度『ゴメンな』と呟き、ゆっくりとその場から立ち去る雅紀の左右バランスの整った綺麗な背中を呆然と見送っていた俺は、突如『引き止めろ!』という脳からの指令に身体を躍らせ、立ち上がった。
 本能に駆り立てられ、勢いよく浴槽から飛び出した俺は、彼の行く手を阻止すべく、駆け出す。
 しかし、そこは水浸しのタイルの上…案の定、『キュルッ』という音と共に、大胆に足を滑らせ、背後の忙しさに気付き、振り返った雅紀のその身体に思い切り飛び込んでしまっていた。
「ご、ごめん雅紀!大丈夫か?」
 俺に押し倒される形で、仰向けに転倒した雅紀。
 その体の上に落ちてしまった俺が、心配そうに覗き込んでいると、パチパチッと瞬きをした雅紀の顔が、見る見る間に赤く変色していく。
 その様子を見て俺は、初めて自分がどんな恥ずかしい格好をしているか気付いたのだった。
 一糸まとわぬ格好の男が、同じく一糸まとわぬ男の上に跨っている…
 『うわっ』っと叫び、飛び退こうとするが、腕を掴まれ、雅紀の胸の中に吸い込まれてしまう。
 剥がれ様ともがく小さな身体は、泥濘(ぬかるみ)にでもはまったかのように、もがけばもがく程、雅紀の体の中にのめり込んで離れない。
「いやっ…雅紀…離せ…っ」
 途切れ途切れに抵抗の声を上げ、暴れる俺に、雅紀が枯れる様な声で呟く。
「朝月…逃げないで…頼むよ」
 チクリと、俺の心臓を射止めたその言葉は、血液に乗って体中へと甘い毒を運び、異様な痺を張り巡らせ、四肢の自由を奪っていく。
 あえかな声の毒牙にかかり、雅紀の上で、上肢だけを起こした状態のまま、硬直した俺を見据えた雅紀は、『ゴメンな』とまた言って、少し身体を起こすと、俺の後頭部を自分のほうへ手繰り寄せた。
 明らかに、さっきの『ゴメンな』とは意味の違う『ゴメンな』…
 彼の困惑が、確信に変わった瞬間だった。
 一度、額同士をコツンと軽くぶつけ、ゆっくりと近づく唇…俺は、合わせてゆっくり目を閉じ、蕩ける様に熱い雅紀の唇を受け止めた。
 『男なんて絶対ゴメンだぜ』断言して止まなかった俺の気持ちが形を変えていく…
俺の確信が、困惑に変わった瞬間だった。


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