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サボり魔と委員長の屋上
【青春 恋愛小説】

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サボり魔と委員長の昼休み-2

「さ、たぁんとお上がり」
そう言って、蓋を開ける薫。
彼女のお弁当は一見無害だ。それどころか、美味しそうですらあるんだけど……。
気配が違う。
こう言ってはとても失礼だけど、邪悪な気配を感じてしまう。
卵焼きが『ケケケケ』と笑っているような、いないような……。 ちゃんと調理されなかった食材たちの怨み辛み妬みが隠し味になってるような気がする。
何とか食べてはあげたいけど、このままでは本当に命に関わってしまう。その時、彼女に『殺人者』の汚名をかぶせてしまう事になる。
彼女の恋人たる僕が、彼女の未来を救わねば。
「ごめん、薫。僕は今まで、君に黙っていた事があるんだ」
「ん、なに?」
う、薫。そんなに疑いのない瞳で見られると良心が……。
いや、ここは彼女のために心を鬼にして。
「正直に言うのは、かなり気がひけるんだけど……君のお弁当は、マズいんだ」
ガーンッ……!!
彼女の背景に、そんな擬音が描かれた気がする。
「そ、そうなん?」
「ごめん、薫。そうなんだ。このままじゃ……離婚するしかない」
「いやや、お料理頑張るから、ウチん事捨てんといて!……って、ウチら結婚してへんわ!!」
バシッ!
うーん、ナイスノリツッコミ。彼女のハリセンが僕の頭を捉える。
さすが関西出身だね。
「…でも、マズかってんな、ウチの料理」
「まぁ、ね。ギリギリ個性的と、言えなくもないかな。殺人的な個性だけど」
「慰めになってへんわ」
……確かに。
「それじゃあ……これはしまうな…」
「うん、ごめんね。お詫びと言ってはなんだけど…」
ゴソゴソ……
ポケットからチケットを二枚取り出す。
「薫が見たがってたミュージカルのチケット、手に入れたよ」
「ほんまに!?うっわ、ほんまや」
ひったくるように、彼女が僕の手からチケットを手にとる。こう見えても、彼女は演劇部員だ。
で、僕も。まぁ、彼女の背後霊部員だけどね。
「今度の日曜日、行かないかい?」
「行く行く!絶対行くで!!」

「喜んで貰えて何よりだよ」
結構高かったけど、彼女の嬉しそうな笑顔が見れるなら、この出費も無駄じゃない。
「あ〜、でもこれ高いやん。ウチの分だけでも払うわ」
おっと、気づいてしまった。
「いや、大丈夫。この前、株で一山当てたから」
「あんた株やってんの!?」
あれ、言ってなかったかな?
「いや、もうやってない。ちょっと興味本意でやったら思いのほか儲かっちゃってね。でも、調子に乗ると痛い目みそうだったから」
「キッパリやめた訳やね」
やめた訳なんだよ。
でも、楽しかった。
なかなか先が読めなかったしね。あんなに頭を使ったのは久しぶりだったなぁ。少なくとも、高校入試なんか目じゃなかったね。
「じゃあ、あんたは今リッチな訳やね」
「とりあえず、リッチかな」
株成金だけどね。
「じゃあ、リッチな広見ちゃんは、今月ピンチな最愛のウチに奢ってくれる優しい優しい彼氏くんやんなぁ?」
両腕を首に回して、薫が猫なで声を出す。
「委員長がたかって良いのかい?」
「広見の前では、委員長の『草津薫』やない。ただの『草津薫』や」
ただの草津薫さんは最愛の彼氏にたかる訳ね。
まぁ、良いでしょ。今の僕の財布と預金口座はホクホクしてるし。


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