第二ボタンのすれ違い-2
「そ、そうじゃなくて、冗談はいいから、君は誰なの?」
このときの僕の取り乱しようといったら、格好悪くて見られたものではなかったに違いない。
元来、僕は女性が苦手なのだ。目の前に立ったりすると、緊張して上手くものを話せなくなるタイプなのだ。
「私ですか?私は・・・魔女です」
今度の僕の反応は、先程よりもっと惨めなものだった。
なにか言葉を返すならまだしも、言葉にすらなっていないような奇妙な擬音を発していた。
さらに、玄関で女の子相手に取り乱しつつ、奇妙な擬音を連発している僕は、傍目から見ればどんなものなのだろう。
・・・・・・きっと、不審者に違いない。通報されなければいいけど・・・。
「貴方は呪いをかけられています。それを防衛するためには、貴方の胸の最も近くについていた、第二ボタンが必要なのです」
もう擬音すらも出なかった。
僕は、奇妙な事態に精根尽き果てて気絶しそうになったが、なんとか意識を保つと、第二ボタンを取ってくるために女の子に一言言って、自室に戻った。
それから数分後。
女の子は嬉しそうに歩いていた。
手にはしっかりとボタンが握られている。
「やった。憧れの先輩のボタンだ」
ここで女の子は立ち止まると、先輩の家に向き直って、窓からこっそりとこちらを見ていた先輩に一礼した。
「やっぱり、嘘をついたかいがあった。恋愛の第一歩――劇的な出会い、は成功かな」
ボタンを渡して自室に戻って来た僕は、こっそりと窓から、去っていく女の子を見ていた。と、突然女の子がこちらを向いて一礼した。
あんなかわいい子が、魔女だなんて・・・
「僕のボタン、黒魔術なんかに使われちゃ、かなわないよなぁ」
僕の後ろには、もう永久に使わないであろう制服が吊ってある。
第二ボタンではなく、第三ボタンのない制服が・・・
Fin.