第二ボタンのすれ違い-1
卒業といえば、第二ボタン。
これは誰でも知っている有名なことではあるが、そんな第二ボタンを欲しいと僕が言われたのは、卒業式も終わった、春休み初日の事だった。
朝の割と早い時時刻に鳴らされたチャイムに、僕は不平を呟きながら、不機嫌を隠さずに出た。
・・・・・・だって、そうだろう。
せっかくの長期の休みに入ったというのに、その初日からいきなり安眠を妨げられるなんて、迷惑・不幸もいい所だ。
「どちら様ですか?」
訊ねながら扉を開けると、そこには僕よりも少し小さめな女の子が立っていた。
かわいくないと言えば嘘になる、そんな容貌。
そんな女の子を見て、僕は不機嫌だった顔を一瞬で営業スマイルのような朗らかなものに変えた。
「第二ボタンをください」
突然、その女の子が見た目と合致した、かわいらしい声でそう言った。
もてない僕としては喜び勇んであげたい所なのだが、さすがに見ず知らずの女の子にそんな事する訳にもいかない。
心が否定する中、僕はそれに精一杯抗い「そんな物どうするの?」と訊いた。
やめとけばいいのに、そんな事をしてしまったばっかりに、今の僕の心は後悔で満たされている。
・・・・・・あぁ、どうして僕はすぐにあげなかったんだろう。
こんなチャンス二度とないかもしれないのに。せっかく貰ってくれるっていう人がいたのに。
心の暴走を止めるのに必死になっていると、あの女の子がまたかわいらしい声を発した。
・・・・その声に似つかわしくない内容だったけど。
「黒魔術に使うんです」
「は?」
・・・・・・しまった。
また僕はかわいい女の子の前で、間抜けな事をしてしまった。
こんな事だから、昨日の卒業式で僕は誰にも第二ボタンをあげられなかったのだ。
迂闊にも口から漏れてしまった間抜けな声を隠すために、僕は慌てて女の子に言った。
「黒魔術って、どんな事するのかな?」
・・・・・・は。
またやってしまった。
明らかに答えの焦点が違うだろう。
もしも女の子が不機嫌だった僕の気持ちを和らげようとして、無理して冗談を言ってくれたのだとしたら、僕はただの冗談の分からない嫌な男になってしまう。