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君の名前
【純愛 恋愛小説】

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君の名前-2

「ちょっと、大丈夫?」
頭の上からの声に、顔を上げる。
そして二階の窓からは、彼女が顔を出してこっちを見下ろしていた。それで気が緩んだせいか、突風に当たられた瞬間、傘の柄がするりと手から抜け、あっと言う間に数メートル向こうまで転々と転がって行ってしまった。 「ちょっと!」
弾かれたように、彼女が声をあげる。
僕の全身は服のまま風呂にでも浸かったかのように、ほんの数秒ですぶ濡れになってしまったのだから声だってあげたくもなるだろう。額に張り付いた前髪をかきあげて再び目をあげると、彼女の姿はなくなっていて、すぐに酒屋の隣のドアから傘を持って出てきてくれた。
「はいこれ。傘」
もう一方の傘を、その人は僕へ差し出した。 「あ。いいっすよ」
と首を振る。
「これだけ濡れたら意味ないし」
馬鹿ねえ、と彼女は肩を揺らして笑うと、その場にしゃがみこみ、さっき僕が落とした小銭を拾い始めた。慌てて僕もひざを折る。 「いいっすよ。俺が拾うから」
「これがないと毎朝、コーラ買えないわよ」 一枚一枚わずかについた砂を払いながら、彼女は僕の小銭を拾い続けて言った。
せめて長靴でも履いてくればよかったのにな、と僕は彼女の足元を見て悲しくなった。べージュの高そうなサンダルはすでにびしょ濡れで、色白の足の先まで濡れてしまっている。
「はい。どうぞ」
拾い終わった僕の全財産を受け取ると、僕は頭を下げて礼を言った。いいのよ、と彼女ははにかむように笑った。
「一本おごります。何を飲みます?」
「え?いいわよ。別に」
「拾い主に、一割」
自販機に五百円玉を入れながら僕が言う。
あは、と吹き出して彼女は、
「じゃあ、コーラね。あなたと同じ」
二人分のコーラを手に取り、片方を彼女へ渡す。そこであらためて、僕は自己紹介した。 「上野テツっていいます。いつもあそこの石段に座っていましたよね」
「うん。天気のいい日はね。ほら、私の住んでる所が上のアパートだから。あ、私は芹沢キョウコ。よろしくね」
よろしく。僕は頭を下げた。
まさか彼女と会話が出来るなんて。今頃になって、感動が胸の奥から突き上げてくる。 キョウコさんはタブを開けた缶を僕に傾けると、雨にはとても似合わないようなまぶしい笑顔で言った。
「二人の出会いに、乾杯」


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