投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

微笑みは月達を蝕みながら
【ファンタジー 官能小説】

微笑みは月達を蝕みながらの最初へ 微笑みは月達を蝕みながら 7 微笑みは月達を蝕みながら 9 微笑みは月達を蝕みながらの最後へ

微笑みは月達を蝕みながら―第壱章―-4

黒く大きな本棚もあり、様々なジャンルの本(やっぱり夕には以下略)が入っていて、上の二段はインテリアの置物(複雑な曲線の金属が、銀色の球の周りをくるくる回ってる)や、なんか色々。
あとデスクトップの灰色のパソコンが、ガラス製の小さなテーブルの上にある。
殆ど全てがモノクロームで構成された部屋。綺麗に調和していて、それ故に生活感のない部屋だった。
「警察じゃ、ないな」
ならばここはどこなのか。
動こうとしたけど、力が入らない。
「…………腹減った」
ここ二、三日、ろくなモノを食べていなかった。家出した、金が無くなった、だから金を奪おうと思った。誰かを傷つける気は最初からなかった。
がちゃん、と扉の開く音がした。
「あ、起きた?」
 白い上下のジャージ姿の女が入ってきた。
 自分と同じぐらいか、少し上ぐらいの少女。まだ幼さの残る顔立ち。確か、金を出せと脅した相手。
「病院連れていこうかとも考えたんだけど、シンが診たら大丈夫だっていうから。ご飯持ってきたよ、トーストとゆで卵でよかったら」
――最後まで聞かなかった。
どこにそんな余力があったのか、それこそ強奪するように噛り付く。
物凄い勢いで咀嚼する夕を見て、少女は笑った。
「よっぽどお腹空いてたんだね。今時珍しい」
「ん、んぐぐぐ!!」
 あんまり一気に食べ過ぎて、喉につまった。意識が遠くなる。
 ……ああ、俺、死ぬんだぁ……パンを喉に詰まらせて窒息死…………
そうはならなかった。
 少女が牛乳をコップに注いで渡してくれた。何も答えられずに一気に飲み込む。
全部食べ終わって、ようやく人心地がついた。
「ここは……?」
少女は少し曖昧な顔になる。
「私たちの家。ここ、レンさんの部屋だから……あまり、汚さないでほしいな」
レン。もう一人の背の高い方の女だろうか。
「あんたは?」
少女はあからさまに不機嫌な顔になった。
「あんたとか言わないで。私は、白って呼ばれてる」
ハク?
「色の白でハク。……変わった名前でしょ」
 少しだけ表情に翳りが見えたが、それは本当に一瞬だったので夕には分からなかった。

 ようやく自分が襲おうとした相手に助けられた事実に気付いたからだ。
「ああ、その………ありがとう、あと、悪い」
「別にいいけど……」
 どこか言いにくそうに、白は訊ねた。
「貴方のその髪、染めたの?」
「? いや、生まれつき。何で?」
 見た目が同世代ということもあってか、夕は白に敬語を使う気にはなれなかった。
「そっか。……生まれつき、か」
 寂しそうな、悲しそうな、懐かしそうな、そんな難しい表情。
 夕はこんな顔をする女の子に出会ったことがなかった。
「あなた、名前は?」
「あ、俺? ……月島、夕。月に島に夕方のゆう。」
「……月島、夕……夕…」
 白が何か考え込んだので、言葉をかけることが出来なくなった。
 夕も、なんとなく、………初めての相手なのに、会ったことがあるような。
「もう身体は大丈夫?」
 その質問はこの状況を考えれば自然なものなのに、何故か話を変えられた気がした。

「あ、ああ」
 実はまだまだ腹は減っているが、身体自体はもう動けそうだ。
「じゃあ、付いてきてくれる? レンさんに、挨拶して欲しいの」
 そういえば、この部屋はレンさんの部屋とか言ってた。
「言動には、気をつけて。穏やかな……人、だけど。とても怖いところもあるから」
 怖いところ。夕の中では穏やかと怖いは両立しない単語だ。
「なぁ、レンさんって……その、あんた……白とどういう関係なんだ?」
 白は笑った。どこか悪戯っぽいような、自嘲するような、やっぱり夕には難しい笑顔で。
「私の御主人様」
 多分、夕は目が点になってたと思う。


微笑みは月達を蝕みながらの最初へ 微笑みは月達を蝕みながら 7 微笑みは月達を蝕みながら 9 微笑みは月達を蝕みながらの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前