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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*4*-1

気が付くとあたしは、家の前で荒い息をしていた。
なぜ、あたしはこんなところにいるのだろう。回想してみよう。
まず、計画書とメモ用紙を教室に忘れて、九時頃好美を誘い学校に行ったんだ。そして、暗い校舎にビクつきながら階段を上がっていた。二階と三階の踊り場の鏡に…そうだ、鏡に映る階段の一番上を人の足が横断していった。
驚いたあたしたちは、一生懸命校舎から脱出して、好美が運転する自転車の荷台に乗り、急いで帰ってきたんだ。
それで、あたしの家の前で好美に払い落とされたから、こうやってつっ立っているんだ。
てことは、好美、あたしの自転車そのまま乗っていきやがった。明日学校行く前に取りに行かないと…。
あたしはハァっと短い溜息を吐いた。
関係ないことを考えて『あの足』を思い出さないようにしているのが、自分でもよく分かった。
何せ、霊感なんぞ微塵もないと思っていたのに、あれだけはっきりと見せられちゃ、ショックは相当でかい。遊園地のお化け屋敷すらただの迷路と楽しんでしまうような人間なのに。「本物は違う」という言葉は幽霊にも使えるのか。新たな発見だ。
何にしろ見てしまったものはしょうがない。
あたしには『計画書提出』という重大な使命があり、足の幽霊は二の次。早く成仏してくれ、と祈ることしか出来ない。
だからと言って自転車もないし、さすがに学校に戻る勇気もないので渋々あたしは家の中に入った。
やっぱりマイホームはとても暖かく感じ、ガラでもないが安心という二文字が心の中に浮かんできた。だからだろう。安心しきったあたしは、その三十分後には既に布団に包まり、深い眠りに付いていた。


朝、あたしは七時で家を出ると自転車奪回のため、歩いて好美の家へ向かった。
そして、我が目を疑うことになる。
なんと、あたしの愛車は津川家の前の道路に『転がっていた』。置かれていたのではない、転がっていたのだ。おおよそ、気が動転した好美が、家に着くなり乗り捨てたのだろう。
想像して欲しい。友達の家の前に自分の大事にしている自転車が、哀愁を漂わせ倒れているのだ。
「助けて…。津川の嬢ちゃん、扱い方最悪だよぅ…。一晩中、道路さんと添い寝しちゃったよぅ…」
まるで、自転車の悲痛な叫びが聞こえてくるようだ。可哀相なあたしの愛車。
「はぁ…」
まだ朝も早いので、あたしは溜息を付きながら音を立てぬよう、ゆっくり自転車を起こした。
自転車に付いた砂を払って、朝の白い日差しの中、左右のペダルを交互に踏みまくった。


早朝の学校は何となく清々しい。窓という窓からは朝日が差し込み、床に明るい光を落とす。いつも人でごった返す通路や廊下は、しんと静まり、あたしのズックのキュッキュという音が何メートルも先まで響いていた。
何だか、不思議な気分だ。いつもあるべき者がいない。いつもするべき音がしない。
今はこんな魅力的な場所なのに、数時間前は別世界のようで、そこに飛び込んだあたしは『足』の幽霊を見た。
あの独特な歩き方。踵を擦って歩くような。彷徨っているとも考えられなくない、そんな歩き方。
たぶん、しばらくは忘れられないだろう。


思っていたよりも普通の精神状態で例の鏡の前を通り過ぎ、心の中で念仏を唱えながら階段を登りきり、一組のドアをガラガラと開けた。
電気も付けてないのに教室は明るい。
あたしは真直ぐ自分の席に向かった。
出来るところまでまとめよう。間に合わなかったら、雅博に裏から手回してもらおう。拒否されたら、そん時は色仕掛けで…。
あたしは自分の机の前で動きが止まった。一度ゴシゴシと目を擦る。そして、前後左右、机の中・下を見てから、もう一度机に目を落とす。


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