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底無しトンネル物語
【推理 推理小説】

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底無しトンネル物語-2

 ミサトとの帰り道。僕は首にかけたカメラを気にしながら歩いていく。
 舗装された道路から歩行者用のわき道を進もうとすると、 その分岐点にパトカーが何台か止まってて何人かの警察の人が物々しく立っていた。
 何かあったのかな?と思っていたが結局僕達は何も尋ねられることなく通り過ぎた。
 砂利道を進むと僕らの前に入り口が馬蹄型のトンネルが見えてくる。
 地元の人はこのトンネルを『底無しトンネル』と呼ぶ。

 既に僕の中で習慣化した通学路だが、いつ来てもこのトンネルだけは異様な雰囲気だった。
 海側の町と山側の町に通じる唯一の山間トンネルなのだが、まるで中は異次元へ通じる洞穴のようなイヤな心地がするのだ。
「ここではシャッターを切りたくないな……」と呟くと、彼女もそうだねと言って同意した。
 戦前に作られたトンネルと言うこともあって中は古びてて、天井の照明は切れかかっている。途中には全く照明の切れた闇の空間も存在した。
 そして、時々吹き入ってくる風が奇怪な音となって、まるで悲しみ嘆く人の声のようにトンネル内に響くのだった。
 
トンネルを出ると僕達の住んでいる海側の町へとでる。トンネルは小高い山につくられていて、そこからの眺望は町を眺めるには絶好のポイントである。
夕陽が沈んでいく海を背景に町にピントを合わせ、シャッターを押してみた。

 その後、普段なら二人でどこか寄り道しながら帰るのだが、その日の彼女は「今日は用事があるから。また明日学校でね」と、ニヤニヤと何やら嬉しそうにまっすぐ家へ帰っていった。
 その後ろ姿が見えなくなるの確かめると、僕も安心して帰路に着いた。

 辺りはすっかり夜だった。
「ただいま」
ドアを開け、引っ掛けてある鈴の音が鳴る。
 あら!おかえり!と台所から母の声が聞こえた。
「ねえ!今日の昼頃ね、この町の銀行で強盗事件があったんだってさ!」
 母はやや興奮ぎみに言った。
 ああ、それで底無しトンネルの近くはあんなに物々しかったのかと思った。
「ねえねえ、帰り道に何か変わった事はなかった?」

「別に。」
そう言って、僕はすぐに二階の自室にこもった。
母が興奮するのも無理もないと思う。基本的にこの辺りは閑静で至極平和な町なのだ。
 しかし、どうも今夜は何か起こりそうな気がする。そうも考えつつ、いつも通りに夕飯を食べ、風呂に入り、宿題なんか手も付けずに布団に入る。

 窓の外では野良犬が下品に強ばらせた雄叫びをあげているのだった。
 翌朝。海側の町は至る所で警官がパトロールしていた。底無しトンネルを出た先の道路では、未だに警察の人が行き交う車や人をチェックしている。強盗犯の陸路を遮断するためだろう。
 警察犬も導入されたらしく凛々しい姿のドーベルマンの目が光っていた。
 
 学校には少し早めに到着した。
 教室に入って朝一番の窓の換気をと思い窓際に行くと、女生徒のすすり泣く声が聞こえた。
 それはミサトだった。
「どうした?上履きに画鋲でも入ってたか?」僕は彼女にそっと近づいて言った。
「ばか!違う」
すぐさま二つ返事で訂正された。
 僕が返事に困っていると彼女の方から話し始めた。
「昨日の夜、今日は私の誕生日だからって家族と外食したの……でも帰ってきた時に家が荒らされてて、多分泥棒に入られたんだと思う……」
 泥棒!?この静かな町で日に二件も事件が起こるなんて。まさか同一犯……?
 僕はいっそう声がかけづらい状況になったがとりあえず聞いてみた。
「やっぱり通帳とか盗られたりしたのか?」
「ううん。お金になるものは何も盗まれてない……でも私の部屋が特にひどく荒らされてたよ」
 むむ、犯人はミサトを付け狙う変態ストーカーか?いや、それだったら家中を荒らす必要はないか……んー。勝手な推理を頭の中で繰り広げていたが、再び彼女が机にうつぶせて泣き始めてしまい、ふっと我に返った。
「まあ心配すんな!今日も帰りは一緒に帰ってやるし、昨日の強盗事件も手伝って町中警官でいっぱいだから犯人もすぐ捕まるって!」
 だからもう泣くなと声をかけて自分の席へ戻った。
 しかし、内心は不安だった。あの警察の力の入れようは普通じゃない……。きっと僕らが知り得ない陰謀が隠されているのではないか。そんな事を考えつつ、山下先生の化学の授業を全て居眠りで終えるのだった。


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