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僕の中の剣道と言う名のすべて
【スポーツ その他小説】

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僕の中の剣道と言う名のすべて-2

親父と言う奴は、思った事をすぐ口に出す。勿論、人に誇れる様な学も無いし、人に誇れる様な剣士でも無かった。
だけど、僕はそんな裏事情も知らずに、ただ親父の言葉を素直に受け取った。
根拠も無い、ちょっと言い回しが旨いだけの言葉なのに、僕は今でも思い出す。
そして、後輩にそう言っている。
そんな時には、あぁ、自分は間違いなく親父の息子なんだ、と納得してしまう。

息も切れ切れ10キロのロードワークを済ませると、太陽が眩しいばかりに顔を出していた。光の線が目に痛い。澄んだ空気の合間を縫って、走り抜ける光の束。抜ける様な大空に、僕は溜め息を放つ。
自分の身体から水分が蒸発していくのが解る。喉は言葉を出せない程乾ききっているし、心臓はどこどことバスドラムの音の様に、身体中に響き渡る。


 走ったら歩け。立ち止まると筋肉が固くなっちまう
 それに、次に動き出すまでに時間が掛かるからな
 ほれ、どうした。さっさと竹刀を持て


余りに連続的な練習メニューに、僕は何度も血反吐を吐く様な思いをした事がある。
でも、一度も弱音を吐かなかった。
親父の見下した様な表情を、絶対に見たくは無かったからだ。


 出来ねぇのか。
 まだまだてめえも甘ちゃんだなぁ


その嘲笑う声や、馬鹿にした態度。
僕は絶対に負けたくは無かった。
ま、今思えば親父の策にまんまとハマっていた訳だが。

縁側に干して置いた防具。物干し竿に掛けられた胴着。
僕は縁側の隅に立て掛けられていた竹刀袋から、木刀を引っ張り出してギュッと構えた。

木刀は竹刀より重量があり、剣先が斜めに尖っている。何の木を使っているかは知らないが、持ち手がツルリと丸いので、竹刀とはやはり感覚が違う。


 まず左手で持ってみろ
 柄(つか)の一番後ろが定位置だ
 ほら、重いだろう
 左手一本で持ち上げるのとは訳が違う
 そんなので弱音を吐いてる様じゃ、竹刀に振り回されてるのと同じだ


左手一本で木刀を持って構える。昔はぶるぶると震えたものだが、引き締まった筋肉は竹刀から木刀に代えた今でも、絶えず成長を繰り返した為か頑丈になっている。


 竹刀は臍(へそ)の延長線上だと思え
 左手、つまり柄の最後が臍の位置に居れば良い
 臍から拳一個分開けた位置が定位置だ
 ゆっくり振りかぶれ
 軌跡が身体の中心を通るんだ
 振りかぶった時、脇を締めろ
 下ろす時は腕が伸び切っていなければならない
 常に正面を向け
 腕が伸び切った位置で制止している時、剣先を震わすなんて以ての外だ
 雑念を捨てろ
 中途半端に剣を振るな
 いいか。そこに何も無くても、お前は今………


『そこに何も無くても、お前は今、空を切っている』
振りかぶる。剣先が半円を描く。剣先のたどる位置は僕の身体の真ん中でなくてはいけない。
奥歯にぎりりと力が入る。
振りかぶって下ろす。左手一本で一連の動作を繰り返すのは、鈍った体にびりっと痺れる。
(僕は今、空を切れているのだろうか)
剣先が振り下ろす度に、ヴォンと耳元で唸りを上げる。


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