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ミライサイセイ
【悲恋 恋愛小説】

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ミライサイセイ final act 「未来、彩、say」-5

Side story ――― 未来、再、say
コンコン
開けられていたドアを、大地は叩いた。
「はい?」
中からは、上品な声が聞こえる。
「あ、ちょっといいですか?」
「どちら様ですか?」
女性は、大地の顔を覗き見るようにして言った。どうやら病室を片付けている最中だったようだ。
「俺、あきらの友人です」
「あぁ、そうですか」言うと、彼女は、ふわりと笑った。ただそれだけの仕草に、彼女のあきらに対する気持ちを含み知る。
「あの、何て呼んだら宜しいんですかね?聞いていた名前と、病室の名札が違っているもので」
「あぁ。そうですね。本来の読み方で良いですよ。ちょっと変わっていますでしょう?」
「じゃあ、ミライさん・・・でいいのかな」
「えぇ、未来。出過ぎた名前ですよね」
「そんなことはないと思います。素敵ですよ」
彼女は白いベットに座り、話を続ける。俺は傍らのパイプ椅子に腰を掛けた。
「あきらは、」
何の抵抗も無く、彼女は恋人だった人の話題を持ち出す。
「あきらはね、最初に間違って私のことをミクって呼んだのよ。それ以来、彼だけが私をそう呼ぶようになった。ミライっていう響きが嫌いだったのかしら」
大地は、思い当たってクク、と笑った。
その様子を不思議そうに、未来は眺める。
「ごめん、ごめん。あきらは、多分ミライって言葉が嫌いなんじゃないよ。ミクって響きが好きなだけだ」
「どうして?」
「あきらの兄貴のこと、知ってる?」
「えぇ。才能豊かな方らしいですね。あきらはいつも、目を輝かせて彼の事を話してくれました。確か、みつひささんですよね」
「うん。漢字で書くと、漢数字の三に、久しいと書いてみつひさ」
みつひさ、三久。
「それは」
未来も気付いて目を丸くした。
「小さい頃は、ミクって呼ばれることが多かったんだよ、三久さんは。だから君のことをミクって呼んでたんだ」
誘われるように小窓から静かな風が迷い込み、無地のカーテンを揺らした。
「君は、大事に思われていたんだね」大地は言った。
彼らにとって、みつひささんに重ねるというのは、多分に意味のあることだった。
「そうですね」揺れる白を、遠い目で見つめて。
未来は幸せそうに微笑んだ。
ほら、あきら、見てみろよ。
大地は思う。
お前は、みんなを幸せにするんだ。
俺や、みつひささんですら持ち合わせていなかったチカラを、お前は持っているんだ。
だから怖れるな、と。
前に進むことを怖れるな、と。

「あきらにも君にも、悪いことをした」大地は言った。
「君は一人になってしまった。そしてあきらも近い将来、大事な人を失う」
自分は残酷な人間だろうか。
大地は考える。
そうかもしれない。
だけど、人生は一度きりだから。
つらくても、後悔の無い道を歩むべきだ。
「大丈夫です。私も、あきらも前を向けますよ。ココロを再生するには、時間がかかるかもしれませんけど、私たちは大丈夫です」
だから私は彼を離した。
だから彼は私を離れた。
取り残される運命を知りながら、それでも今の選択を選んだのは、心に嘘をつけないから。
本心を隠しながら生きるには、道のりは長すぎる。

未来は、もう一度言った ―――― 私たちは大丈夫です。

その澄んだ響きに、大地は頷いた。「そうか」
カーテンを揺らす柔らかな風。
窓のそとは、一面の青空だった。
今なら、どこまでも飛べる気がする。
この緩やかな追い風を受けて。
今なら、みつひささんに追い付ける気がする。
そうしたら、彼にこう、声をかけよう。
――― 見えていますか、俺たちのミライ
――― あなたが遺した微笑、見えていますか


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